「ねぇ、大佐ってさ、どんな愛の言葉を囁くの?」
「えっ、うーん……」
街に立ち寄って、アニスと2人で宿の手配を終えた後の事だった。
みんなが来るまで暇だから恋バナでもしようと一方的に切り出された。
「男同士の恋バナなんて興味ないだろ」と言うと「男同士ってより大佐の恋バナが気になる」と返ってきた。それは確かに気になるだろう。だってあのジェイドだ。本人に聞くなんておそろしい事は出来ないだろうから、相手である俺に聞くのも頷ける。
けど、愛の言葉を囁かれた記憶はない。いつもそういうのは俺からで、それに対して「私もですよ」と返ってくるだけだ。
「…ジェイドからはないかな」
「えー?!なんかそれってズルくない?ガイはいいの?愛が足りなくない?」
「いや、特に不満はないけど…あ」
「何をしているんですか?」
「はぅあ?!」
噂をしていた本人が突然真横に現れて、アニスは椅子から飛び降りるようにして距離を取った。マルクト軍部に報告書を提出しに行っていたのだがいつの間に戻っていたのだろうか。
「た、大佐ぁ、いつから居たんですか」
「最初からです。いやぁ恋バナですか、楽しそうですね。確かアニスの初恋相手はダアトの託児所で」
「わー!!なんで大佐がその話知ってるんですか!!?!てゆうかあれは恋じゃないです!!勘違いなんです!!はい、もう恋バナ終わり!!恋バナ禁止!喋ったら罰金10万ガルド払ってもらいまーす!!」
慌てて話しを遮って、口止めの罰則をするだけしてアニスは逃げるように走っていった。
アニスの座っていた椅子にジェイドが代わりに座る。
「残念です。もっとしたかったですね恋バナ」
「自分で終わらせておいてよく言うよ…」
視線が会った瞬間、ふわりとわずかに瞳が細くなる。先ほどアニスに向けていた揶揄うものでも、出会った頃の探るような視線でもない。優しく暖かい感情を宿した瞳に自分が写っている。
(愛されてるなぁ)
そう感じて思わず笑みが深くなる。
「どうしたんですかニヤニヤして」
「罰金払いたくないから言えないな。そういうあんたもさっきからずいぶんと嬉しそうじゃないか」
「私も罰金を払いたくないので言えません」
言葉で伝えるだけが愛じゃないんだと、今度アニスに聞かれたら答えよう。