渦巻く、この感情を、抑えきれない私は、滑稽だと。
貴方がもし、軽蔑したなら
ミライは、少しでも良い方へ
進んでいたのかもしれない。
I'm in you11
「帰ってたんだな・・・早苗さん」
「仕事の関係でね、すぐに戻るけど。それより、久しぶりねぇ!」
そんな気さくな言葉を吐いて、微笑む女性。
真っ赤なルージュに、オシャレなスーツ。
いかにも、出来る女、代表なイメージだ。
「あぁ」
そういって、静かに頷く、信太郎に
私は、少々混乱していて。
こんな美人で、キレイで、仕事が出来そうな人と信太郎が知り合い?
もしかして・・・。なんて勘ぐってしまうのは、仕方ないと思う。
「信太郎、紹介しないと、香奈ちゃんパニックになってるから」
どうやら、その女性のことは、顔見知り程度に、理解しているらしい皓は、困ったように微笑む。
そうだ、私が変な勘違いをしてしまわないうちに、言ってほしい。
「あぁ。この人、早苗さん。俺の元カノ」
それは、言わなくてもいいだろう・・・。
ため息にも近い、声を発した、皓。
元カノ? あぁ、予測どおりね。って、え、なにそれ・・・。なにそれ!!!
「アタシ、レコード会社に務めてるの」
そういって、微笑む彼女、早苗さん。
信太郎の、元彼女。
大人の女性で、仕事も出来る、というイメージは、どんぴしゃに当たっていて。
「え、早苗さんって、お幾つですか?」 と、聞いてみれば
「同じ女に対して、変なこと聞かないでよねぇ。
少なくとも、アナタたちより、一回りくらいは、年上よ。おばさん、おばさん!」
なんて、人懐っこく、笑う。
友人の皓、信太郎、彼女である私、そして、元カノの早苗さん。
私の部屋は、まったくの異空間となっているのに、この人は、それを感じさせない。
「妹、あんま年について、触れると、早苗さんキレるから、気をつけたほうがいいと思う」
「信太郎も、なにいってくれてんの! アタシはそんなに心狭くありません!」
信太郎と、早苗さん。数十年ぶりという、時間差が嘘のように、笑いあう。
なぜだろう、私の心臓が大きく脈打つのを感じた。
それを、察するように、苦笑いを向けている、皓。
なんだか、彼の表情によって、私自身も悲しくなってしまって・・・。
「仲良しですね・・・」 自虐に近い、そんな言葉を発する。
「そうねぇ。イヤな別れ方じゃなかったからかしら? 私は信太郎が、まだ二十歳になったばかりのときに会ってね。
目指す場所は似ていたし。いつの間にか、付き合ってて。
だから、互いに仕事が忙しくなっても、夢のためだから。で、すぐに決着がついたもの」
互いに、夢を支えあって歩いてきた二人。
たとえ、途切れてしまったとしても、その時代はきっと、輝いていたに違いないだろう。
そんな二人の、再会・・・。嫌な予感がしないわけがない。
「それにしても。可愛いわねぇ。信太郎の妹」
「はい?」
そんなことをいいつつ、此方を向いて微笑む、早苗さん。
カワイイだなんて、ものすごく恐縮なのだけれど。もしかして、私と信太郎が兄弟なんだとか、勘違いを・・・?
「や、違うって。確かに、妹って呼んでるけど、血繋がってるつもりないから」
「あぁ。そういえば、信太郎、昔に一人っ子だとか言ってたものね。ごめんなさいね〜」
「い、いえ!そう見えるのは、事実ですから」
それに、元カノを目の前に、普段どおりに゛妹゛と呼ぶ、信太郎もどうかしているのだと思うし。
キッと、小さく彼を睨みつければ、悪びれる様子もなく、私がくんできた、お茶を飲む、信太郎。
「じゃあ、お友達とか?」
「い、いやっ」
次の早苗さんの質問には、口ごもる。
ここで、信太郎の今カノです! なんて、言ってしまっていいものなのだろうか。
だって、顔、スタイル、仕事に、明るい性格。早苗さんのすべてにおいて、私は負けてしまっているじゃないか。
私なんて、腐女子だし、たまにヘタレ笑顔とか言われるし、変えるつもりはないけれど、腐女子だしで・・・。
「あ、あの! 私、学校の課題があるんで、やってきますね。ここの部屋使ってて、いいですから!」
「香奈ちゃん・・・!?」
そんな言葉を、早口にまくし立て、席を立つ私。引きとめようとする、皓の声は聞こえない。
特に急ぎの課題もないし、ココというのは、私の部屋なのだけれど。
早苗さんと一緒にいられなかった。・・・なんだろう、心臓がキュウっと、締め付けられるみたいに、苦しい。
「終わったら、声かけてください」
ムリやりな笑顔を浮かべて、退散する私。
これじゃあ、まるで逃げてるみたい。
まだ、少しの荷物が残っている、兄貴の部屋。
その床へと座り込んだ。
主に、本棚の中には、参考書やら、漫画やらが残っているだけで
本当に、兄貴は私から離れていってしまったのだと思う。
そして、もしかしたら、信太郎も・・・なんて思ってしまう、私は
究極のダブルパンチをくらい、KO寸前なのだろう。
「もう、いい! この少年漫画で、現実逃避してやるんだから!」
独り言とは、思えない音量で言葉を発し、本棚から一冊を取り出す。
明るい髪の男の子が、表紙のソレ。絶対、この人、受けだ。なんて、腕組をして考える。
そんな彼の髪の毛へと、冷たい何かが流れ落ちた。
「なんで、」
それは、雫となって、カバーを伝う。
自分が泣いているのだと気付いた。
兄貴のお別れのとき、あんなに泣いたばかりなのに。変なの。
なんて、思うけれど、本当のところは分かってる。
私のこのナミダは、早苗さんへの嫉妬心から来るものだ。
そして、私なんか気にも留めてくれない、信太郎への。
「バカ・・・信太郎」
「誰がバカ?」
そんなことを言いながら、私の目の前に立っていた人物。
信太郎、だ。
「い、いつの間に、入ってきてたの・・・?」
「現実逃避がどうのこうの、言ってたあたり。トビラに、背向けてるから、気付かないんだろ。
・・・それより、俺? バカなの」
私の目線まで、顔を下げて、首をかしげる、信太郎。
まただ、涙があふれそうになる。
「香奈だろ? また、誠次のことでも、思い出した?」
そう、バカなのは、私。
だけど、兄貴とは、関係ない。
「それとも、俺?」
「・・・信太郎のせい」
再び、首をかしげて問う、彼の言葉を、今度は、固定した。
涙の冷め切らない、瞳で睨みつければ、信太郎がフッと微笑む。
「な、なんで、笑って!?」
「ヤキモチとか。やっぱ、妹可愛いなぁっと思って」
そんな風に、頭を撫でる、信太郎。
究極のSだと思う。計画犯か?コノヤロ。
「早苗さんとは、数十年前の話だし。今更、寄り戻そうとか、考えてないよ。お互いにさ」
「そ、そんなの分かんないじゃん!」
大声で、怒鳴って見せれば、信太郎は少し考える仕草をして。
また、あの意地悪な笑みを浮かべた。
「早苗さん、ダンナいるらしいし」
「え!?」
そ、そんなの、早く言ってくれればいいのに!
それなら、こんな傍から見れば、クダラナイと切り捨てられるような嫉妬。しなかったのに!
「で? 俺、早苗さんに、香奈は彼女だって、紹介する気、満々なんだけど。しない方がいい?」
また、意地悪な笑みを浮かべて、私に問う信太郎。
自分になんか、ひとかけらも自信はない。
早苗さんに、ビジュアルで勝てるとは思えないし、ましてや、その思い出の量だって違うだろう。
それに、すぐに不安になって、何十回も信太郎に迷惑かける、子供な私。
でもね、
「する!」
意地悪で、冷たくて、でもたまに、優しい信太郎を
好きな量なら、負けないと思うから。なんて思う私は、少女漫画の読みすぎ?
でも、構わないでしょ。自惚れたっていいでしょ。
「手、繋いで行ってやろっか?」
アナタが、微笑む限りは。
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少女漫画ぁぁぁぁぁあー!
んだ、コレ。寒気するよ、うちのかき方に!!
最近そんなに、読んでるつもりないんだけどな。
そして、トントン拍子な気する・・・。ごめそ。
それにしても、だんだんとSになる信太郎。奇跡だ!
そして、皓がしゃべらないのも、また奇跡!
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