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とある本丸の話(とうらぶ


「これはこれは隊長殿ではないか」

山姥切が覗き込もうとしたその暗闇から聞こえてきたのは、三日月と共に先行した鶴丸の声。姿はうっすらと白く見えるだけでどんな表情をしているのかわからないが、口調はいつもと変わらないようで安心した。
が、隙間から流れ出してきた空気に顔をしかめ、山姥切は思わず口を手で覆い後ずさった。

「さすが霊力に敏感なだけあるな…」

よく見れば三日月も整った顔を不愉快そうに歪めている。

「おいこれは、この不浄な空気はなんだ」

この中で普段と変わらないのは姿の見えぬ鶴丸だけ。いや、もしやこの原因を作っているのが彼ならば。
三日月の制止を振り切り、山姥切は勢いよく障子を開け、言葉を失った。

「おっと、これ以上は近寄らない方がいい…穢れるぞ」

へらりと笑いながらしゃがんでいる鶴丸の前には、うずくまって動かない審神者の姿。周りには庭と同様にいつくつもの折れた刀剣が散らばっている。畳には黒くなった血痕が点々と染み付いており、辿れば審神者の元へと着く。
何か言わねば、と思うもうまく言葉にならない。こういうものは数多く見てきたというのに。ひゅぅっと呼吸が空回りしている。

「ある、じは…?」

ようやく発せられた声は掠れていた。それに鶴丸は無言で首を横に振る。その事実が信じられなくて、山姥切がふらふらと審神者に近寄ろうとしたが三日月が肩を掴んで制止した。

「嘘だろ、なんで…」
「それを今こんのすけに調べてもらっている。…あと、政府の指示もな」

近侍を勤めたことのある鶴丸は審神者の状態を確認後、政府との連絡係であるこんのすけをすぐに呼び出し手配をしていた。三日月は他のものを近づけぬように、と見張りをしていたという。

「どうしてあんたは大丈夫なんだ…」

死者の空気に当てられ顔色を悪くしている山姥切とは違い、鶴丸は平素と変わらない。

「なに、一度黄泉へと旅立ったことがあるからな。慣れているのさ」

原因は未だにわからないが、わかっているのは多くの仲間たちが折れ、審神者が死んだこと。
ふと、山姥切は疑問を抱いた。
自分たち刀剣は審神者の力によって人間の体を与えられ顕現している。審神者が力の源だと思っていたが、いなくなってしまった今、どうして自分たちはまだここにいられるのだろうか。審神者ではない違う力が介入しているのか。
物思いにふけっていると、道場の方から刀同士がぶつかり合う音が聞こえてきた。

「誰かが戦っているようだな」
「加州…!」

まだ後方の部隊が帰ってきていないなら、その音がするところにいるのは加州だ。敵襲に遭ったのかと三日月は構えるが、山姥切は咄嗟に駆け出した。

「君はいかなくていいのか?気分転換も必要だぞ?」

室内から鶴丸に促され、すまん、と言い残し三日月も山姥切のあとを追いかけた。

「さて、もう俺しかいないぞ?」

誰もいない空間に話しかけると、どこからともなく白い狐が姿を現した。政府への連絡を頼んでいたこんのすけである。申し訳なさそうな表情でとことこと鶴丸の元へと歩み寄った。

「皆さんが人間の姿を保っていられる理由と、今後の処置について相談があります」
「おや、新しい主殿をお迎えするんじゃないのか?」
「そうしたいのは山々なのですが、それは出来ないのです」


※※※


山姥切が三日月と合流する少し前。加州は主の姿を屋敷中探し回った。しかし見つかるのは折れた刀剣の欠片と血痕のあと。誰もいないのか、せめて誰かいて欲しい。

「安定…!」

いつもは喧嘩ばかりしている相方の姿を探した。あいつなら前の主譲りの腕前だ、そう簡単にはやられるはずがない。自分に言い聞かせてないと足が止まりそうだった。
屋敷の中には嫌な気配があった。敵ではなく、本能的に近づきたくない種類のもの。それを避けるように道場へと足を向ける。道場と屋敷を結ぶ渡り廊下の柱にはいくつもの刀傷が刻まれているが、落ちてる破片はボロボロのものばかり。ここで戦った味方はきっと勝ったのだろう。
道場の扉は開いており、そこに手をかけると何かが加州目掛けて飛んできた。咄嗟に刀を抜いてそれを受け止めると、飛んできたのではないことに気づいた。文字通り目の前で止まったのは黒く染まった切っ先。

(敵が残ってた…!)

大きく刀を払いのけ、敵の腹部に蹴りをいれる。距離が開いたところで、ようやく自分を襲った正体を知った。
その姿に加州は目を疑った。

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