わかってた、こうなるってことはわかっていたけど、言えなかった。
「っ、しらいし!」
俺の声になんて見向きもせず、白石の姿はなくなった。
重たい沈黙。
「謙也さん、いまのはあんたが悪いです。」
いつも減らず口ばっかりいう光の言葉が胸に突き刺さった。
「謙也、ほんまどないしてん、」小石川が困ったように問いかけてくる。
けど、「さっき話したとおりや、これ以上はいえへん。俺ん家の事情や。」
ぎゅっと拳を握りしめる
爪が手のひらに食い込む。
「謙也くん、せめて蔵リンには先に伝えておいた方がよかったんとちがう?」小春のその言葉にただ俺は力なく首を横にふった。
白石にこそ、言えない。親友だからこそ。
そして、テニス部全員にも。大事だから、心配なんてかけたくないから。
ーーーーーーごめん。
言えなくてごめん、我が儘でごめん。
けど、言うわけにはいかない。
なにも言わない謙也に一同はなすすべがなかった。
ただ、ひとりを除いては。
「ーーーー.......」
白石と謙也。結局あの日からまともにはなすことはなく、ついに卒業式を迎えた。
そして、
「謙也くん、よくきたね。」
「叔父さん、、こんにちは。」
「謙也、」
「侑士、久しぶりやなあ。元気やった?」
「そないなはなしは後でええやろ、はよ入り。・・・・・調子どうや、」
「なーんも。なんやなん、病人扱いするなや。」
「・・・・・」
「、な。」
「あ、ちょっとのあいだ外おってええ?いま外の空気めっちゃ吸っとかんと忘れてしまいそうなんや。おれ、あほやし!」
「あほ、勝手にせえ。これ着とけ、まだ寒いからな。」
「、、、おおきに。」
侑士の背中を見送って、大きくいきをすう。
忍足総合病院。
これからおれの闘病生活がはじまる。
「、、、」
似非関西弁注意!
さよなら、流れ星。
「おれ、東京いくことになってん。」
それはあまりに唐突な言葉だった。
卒業式まで残りあとカウントダウン7日の昼休み
いつものようにテニス部全員でごはんをたべて、いつものように馬鹿しながらはなしをしていたそのとき。
あ、おれ、皆にはなすことあったんや、なんて まるでいまからちょお走りにいってくるわみたいに簡単にアイツは言った。
「東京、?」
「ん、せや。やっぱりなあ、俺のいえって病院やんか。だからあっちの医学専門の高校いこうおもってんねん。」
テニスも、ここまでやなあ。
あまりの彼の告白にだれも、なにもついていけない。
医学専門の高校? テニスも、ここまで?
ここまでって、
「どういうことや、謙也、、」
自分でもびっくりするくらいの低い声。けど謙也はびっくりするくらいか、冷静に「話したまんまのことや、おれは、テニスは、」
「テニスは、もう、やらん。」
「謙也さん、あんた、」
「謙也くん、どないして、、」
光と小春が呆然と言葉を呟いた
けど、謙也はそれには答えずただ、「堪忍なあ、」と苦笑いを浮かべるだけで。
無性に、腹が立って、
「なんで、なんでやねん、謙也!」
気づけばいつの間にか胸ぐらをつかんでいた。
「おい、白石やめえや!」
小石川の静止がかかる、けど、やめない。やめられない、
「なんで、なんでそないなこともっと早く言ってくれんの、!?おれは、おれ、は、、」
俺は、また謙也とテニスができる、そうずっとおもっていた
ずっと、また同じ教室で、
ずっと、
なのに。
「なんで、相談のひとつもしてくれんかったんや、」
ぽたり、
空はムカつくくらい晴天なのに。
太陽の日差しが熱いくらいなのに。
足元のアスファルトに水がポツポツと落ちる。
高校ちがうとか、テニスもうやらんとか、謙也の人生や、俺が口出しできるわけない。せやけど、それでも。
結果が変わらなかったとしても。
「話してほしかった。」
もっと、はやく。さきに。
一年から三年まで、もうなんかで結ばれてるとしか思えないくらい毎回同じクラスで、一番話しやすくて。
俺は、
「親友やって。ずっとそう思ってた。けど、違ったんやな、」
なにも、なにもはなしてくれなかった。
噛み締めた唇からは鉄の味がした。
「もーしらん、おまえなんか東京でもどこへでも行ったれ!!!!!!!!もー二度と帰ってくんな!」
ドン、と体を殴ってそのまま階段をかけ下りる。
「っ、しらいし!!!!!!」
もう、いまはなにも聞きたくなかった。