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アフターブルー


始めの印象は最悪だった。
アーサーは昔っから形式ばったことしか出来なかった。緻密にレポートを書き上げることは得意でも白い紙に好きなものを書け、なんていわれたら手を止めて固まるしかない。
いつだったかアルフレッドに、「君の取り柄は底意地の悪い頭のキレとその几帳面さくらいのものだよ」―と言われたことがあったが、なるほど言われてみればその通りだ。現にこうしてアーサーはその長所をいかし天職ともいえるべき生徒会長という任に就き、見事な功績を挙げているのだから。
それ故に自分にはこれしかないと思っていたし、自信もあった。それなのにふざけた調子の彼はそれを鼻で笑ってこういった。「つまんない奴だな、お前」



アフターブルー


「ふっざけんなっ!!」
感情任せに勢いよく机を叩く。机の上に乗っかっていたティーポットがガチャンと揺れて紅茶が少しこぼれたが、そんなことはどうでもよかった。「アーサーさん。机が壊れてしまいますよ」右脇のソファに座っていた菊に静かにたしなめられ、アーサーは少したじろぎ、そしてゆっくりとため息をついた。「・・・すまん。八つ当たってた。」「いえ、いいんです。それで、一体どうしたというのですか?」菊がそうたずねると、アーサーは苦々しい表情を浮かべ、歯切れ悪そうに口を開いた。「今日の昼休みなんだけどさ・・・すごい変な奴にあったんだ」菊ははて、と首を傾げる。目立つような人物は全てアーサーの情報網にひっかかっているはずだ。その彼が知らないすごい変な奴なんているのだろうか?アーサーは続ける。「中庭の少し奥まった方に、バラ園があるのは知ってるだろ?そこにバラの手入れをしにいったら、なんか倒れている奴がいるんだよ。具合でも悪いのか、もしそうなら保健室まで運ばないととか思って見に行ったら」「はい」
一端言葉を切ったアーサーに聞くは軽く相槌を打った。何故だか言葉にするのをためらっているような節があったが、無言で続けるようにと合図を送ると、アーサーはやっと口を開いた。

「・・盛ってたんだよ」
「へぇ・・・・・・・・え?」

思わず聞き返すとアーサーは、だから話したくなかったんだ、と顔を背けた。「菊にこういう話はまずいかなとは思ったんだ!でもお前くらいにしか話せる奴いないし・・!!」「アーサーさん、落ち着いてください。私なら大丈夫ですよ。・・まぁその、少し驚きましたが。続きをどうぞ」「・・・悪い・・」アーサーは申し訳なさそうに特徴的な眉毛をきゅっと歪めた。頼られるというのはやはり嬉しいし、話にも実はかなり興味があるのだ。菊はにこりと微笑んだ。ぜひ詳しく聞きたい。
「俺はしばらくポカンとして、そいつ・・・正確にはそいつ等か。・・を凝視してた。別にセックス自体は見慣れてるし、もっとハードなのだって知ってるから・・いやなんでもない。とにかく、そういう行為自体には驚かなかったんだ。でも問題は、その場所が学校の中庭の、俺が丹精こめて作り上げたバラ園だったって言うことで。怒りのボルテージがこう一気に上がりすぎて、一瞬呆けちまったんだ。で、次に思ったのが、どこのきちがいだこの馬鹿は、で、その次がどうやってこいつらを追い出すか、だった。」
「そうなんですか・・あの、出来れば性描写の方をもう少し詳しげふんげふん何でもありません・・どうぞ続きを」
「?あ、ああ・・」アーサーは少し戸惑ったが、聞かなかった方向でまた視線を自分の両手にさげた。
「とりあえず蹴り飛ばそうと思ったんだが、あいにく女子生徒もそいつの下にいるわけだから、怪我をさせるかもしれないだろ。だからぐっとこらえて、なるべく光景を見ないようにしながら声をかけたんだ。『ここで何をしているんだ?』って。そしたら、あいつがこう言ったんだ、『何って、ナニでしょ。あんたもしかして童貞?』・・・・!!!失礼だろ、マナーも何もあったもんじゃない。『ふざけんな!』俺がそう怒鳴ると奴はにやりとクソむかつく笑顔浮かべやがって・・・、

『あれー、ごめん。冗談のつもりだったんだけど。そう怒るなって、別に童貞が悪いわけじゃない』
『もうフランシスったら、あんまりからかっちゃだめじゃない。』くすくすと笑う女子生徒の笑い声に、アーサーは耳を赤くした。『てめぇいい加減にしろよ!俺は別に童貞じゃねぇッ!!ああそれよりもまず早く服を着ろ馬鹿っ!!』『おーおー必死になっちゃってまぁ。ごめんアマンダ、水刺されちゃった。また今度でいい?』さらりとキラキラ光る金髪を手でかきあげながら、フランシスはにっこりと溶けるような笑みを浮かべる。それに一瞬アーサーはどきりとして思わず目線をずらした。男の自分でもどぎまぎするような色っぽさが彼にはあった。『もちろん・・いつでも空けとくわ』 チュッと軽いリップ音とともに、女子生徒は乱れた制服を整え立ち上がり、魅力的なウィンクをフランシスとアーサーに投げかけて立ち去っていった。残ったのは二人だけ。異様な気まずさに思わず口をつぐんでいると、フランシスがため息をついてから体を起こした。ちらりと見える均等に筋肉のついた引き締まったその体は、アーサーにしてみるとまさに理想的なものだった。「・・なに?」「え、や、何でもねぇ!」
自分を見つめる視線に気づいたのか、フランシスが怪訝そうにこちらを見たのでアーサーは急いで顔を背ける。すらっとした鼻立ち、きめ細かい肌、そして朝の海を思わせるような美しい青色の瞳。全てが彼の美しさを物語っていて、アーサーは急に自分が恥ずかしくなった。
「で?俺かなり不完全燃焼もいいとこなんだけど、お前誰よ?」「・・アーサー・カークラウドだ。お前は?」するとフランシスは意外そうな顔でアーサーを見た。「え?俺のこと知らないの?」さも驚きだ、といわんばかりの態度にアーサーは目を細め、軽くため息をつく。たまにいるのだ、こういう勘違い馬鹿が。ただ、今回ばかりは幾分かその通りだと思わざるおえなかった。これだけの外見だ、相当目立つ。となれば自分が知らない訳はないのだが。ひとまず後で調べておくとして、今は彼の基本的な身元を知ることが最優先事項だった。「お前が誰にしろ、校内での性行為なんて許されるものじゃ無い。所属する部とクラスを言え」「お堅いねぇお前。・・2年のフランシス・ボスヌゥワ。一応生徒会やってる」「2年で生徒会っと・・・・・・は?」アーサーの言葉に、フランシスは首を傾げる。「なによ?」「お前が俺より年下な訳ねぇだろ。第一俺は生徒会長だぞ、生徒会のメンバーなら知らない訳ないだろうが!下手な嘘も対外にしろよな。」ほら早く本当の事言え、と急かすアーサーを他所に、フランシスは何事かと考えこんだ後急に噴出して笑い始めた。「何が可笑しいんだよ、ぶっ飛ばすぞてめぇ!」「いや・・・はははっ・・ぼ、坊ちゃん勘違いしてるよ・・あー腹痛い・・」心底可笑しいというように涙を指でぬぐうフランシスにイライラしつつ、アーサーは再度問い詰める。「だから何だよ!」「あのね、二年は二年でも、高等部の方なわけ。生徒会も、高校のやつ。ちなみに俺んとこの生徒会長はギルベルトっていう、すっごいアホな奴だから。」フランシスはまだ笑いが収まらないようで、それがなんだか無性にムカついて悔しくて、恥ずかしさにアーサーは耳を染めた。そんな様子に気づいたのか、フランシスはごめんごめんと彼の頭を軽く叩いた。「やー、それなら知らない訳だよな、うん。俺もこんな可愛い後輩がいるなんて思って無かったよ。お兄さん感激。」パシッと鋭い音がして、その手をアーサーが振り払った。「上級生だろうがなんだろうが、違反は違反だ!このことはきっちり上に通しておくからな!それと急に年上面すんじゃねぇッ!」フランスは首をすくめてその手を下ろした。「おーおー怖いねぇ。がっちり形式にはまり込んじゃってさ。なんていうか、つまんない奴だな、お前」そこでついにアーサーの堪忍袋の緒が切れた。
「てめぇマジでいい加減にしろよッ!!この祖チン野郎ッ!!」「なっ、お前俺の自慢の息子が祖チンな訳ないだろ!第一生徒会長ともあろう奴がこんなとこで祖チンなんていうのかよ?!」「うるせぇっ!お前だって生徒会だろうが!!」

こうしてギャアギャアと言い争いをしているうちに昼休みは終わり、喧嘩の勝敗ははっきりしないままその場を終えたということだった。

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