12/10/08 11:51 (:過去)
episode21









午後、店番の交代と共に悠希がやってきた。



悠希「七海、お化け屋敷行くべ!」

七海「………えっ?」





昨日、悠希とは気まずいまま別れたが何事もなかったかのように接してくれた。




七海「ごめん、綾と麻美と回る約束しちゃった。」

悠希「……………。」

なぜか悠希が一瞬固まった。


「……行ってきなよ。」

麻美「うん。行ってこい!」


近くにいた2人はそう言ってくれたが、様子が少し変な気がした。





悠希「じゃあ、俺も一緒に回る!」

麻美「そんなに嫁と回りたい?(笑)」

悠希「そうだなー。(笑)
  うちの嫁ほっといたらなにするかわかんねぇからさ!(笑)」





あれ?

固まったかと思えば、今度は満面の笑み。



気にしすぎたかな……?





七海「ふざけなくていいからっ!
  綾、どうする?」

綾は未だにこっちに来ようとしない。

悠希が一緒は嫌なのかな?



「あっうん。全然いいよ〜♪」

悠希「………よろしく!」


2人は笑ってる。

でも、お互い表情が少し雲っているのがわかる。


それに対する麻美も異常なくらい明るく振る舞ったかと思えば、携帯を開いて違うことをしている。






なんだろう…この雰囲気……。


違和感を感じ気にはなったが、私達は各クラスを回るだけ回り、中庭で休むことにした。





「やばい〜食べ過ぎた!
 ダイエットしてたのに〜!」

綾が悔しそうに言う。


麻美「ダイエットしてる食べっぷりかな…?(笑)」

「うるさっ!
 明日からだよ、明日から!」

七海「ありがち〜(笑)」

悠希「ありがち〜(笑)」

「……ほんっと、バカ。
 ………バカ夫婦!鬼夫婦!」








感じた違和感も一瞬だった。

悠希は特に何もないかのように麻美とも綾とも接していた。

でもそれに対する綾の反応だけは未だにギクシャクしているみたいだった。

そしてやっぱり、綾の表情は曇ってばかり。


今も、一瞬だけど曇った。


私はそれが気になって仕方なかった。






悠希「バカ夫婦だってさ。
  バレた?(笑)」

七海「なに乗ってんのアホ!」



悠希は相変わらず異常な明るさ。


だけど気になっていても、笑えていることにホッとしていた。







麻美「ねぇねぇ、聖は?」



麻美は聖が気になるらしく、ずっとキョロキョロしていた。



悠希「………ん〜、知らね。」


冷たく言う悠希に麻美は気づいていなかったが、綾は一瞬固まっていた。



麻美「どこにいるのかな?
 あー!会いたい!!!」

「電話してみなよ。」

麻美「あっ、そうか!」


麻美は携帯を取り出し聖に電話を掛けはじめた。


その間悠希は黙って違うとこを向いている。

綾はさっきの悠希の態度が気になるみたいでチラチラと悠希を見ていた。


そして私も、昨日の悠希のことを思い出していた。





麻美「もしもし聖?いまどこ?」

麻美は電話を掛けながら綾にガッツポーズをした。

私も口を挟みたかったが、昨日の悠希とのことがありなにも言えずに黙っていた。
















「やっほ〜♪」


しばらくして聖がやってきた。

麻美が私達の場所を伝え、来るように呼んだのだ。



「集まってどうしたの〜?」





………相変わらずチャラい。

麻美の話を聞いたあとってのもあり直視できないでいた。



聖が来て楽しそうな麻美とは逆に、私と悠希はそれぞれ違う想いで2人を見ていた。


そして、綾までも……。
















その後、綾は文化祭実行委員の集まりのため途中で抜けた。

クラス委員はその仕事もあるから、綾はずっと動き回ってる。



綾が抜け、中庭には、私、悠希、麻美、聖の4人だけ。

麻美は相変わらず聖に話しかけていたが、聖がときどき私を見てくる視線が少し気味悪くて、私はトイレに行くと言ってその場から離れた。

もちろんその場から離れたいだけの嘘だったけど。











どうしようかぷらぷらした結果、私は校庭に向かった。

転校してきてからいつも周りに人がいたから、少し一人にもなりたかった。


でも悠希は当たり前のように私を追いかけてきた。





悠希「七海、ごめんな。」

七海「どうして?」

悠希「俺が言ったことまだ気にしてんだろ?」







『甘いんだよ、その考え方』



なに対してなのかはっきりはわからなかったけど、なんとなくそのことだろうと思った。






七海「…気にしてないよ。」

悠希「嘘つけ、どんぐり。」

七海「そんな、嘘じゃないもん。」




…………嘘だけど。



悠希「はぁ?
  じゃあなんでトイレとか言って校庭にいんだよ。」

七海「ん〜、迷った?」

悠希「はぁ?!
  それが本当ならマヌケにも程があんべ?
  とりあえず、あそこ行こう。」


私達は校庭に山積みにされたマットに横になった。





悠希「いいだろ〜北海道。」

七海「そうだね〜。
  東京とは全然違う。」

悠希「お前、あれから……記憶の方はどうなんや。」

七海「………。
  ん〜…全然、かな。
  “母さん達”にも気まずくて話せていないし。」

悠希「そっかぁ…。
  まぁ、ゆっくりでいい。
  お袋もそう言ってた。」

七海「お母さん、元気にしてる?」

悠希「元気にしてるって、まだ最近のことだべ?(笑)」

七海「それもそうか。(笑)」








穏やかな時間が流れる。

いつもこんな穏やかならいいのに…。


そう思った。






悠希「七海?
  今日も明日も一緒に帰ろうな?」

七海「そんなに私と帰りたい?(笑)」

悠希「………帰りたい。」


あまりにも素直だったから、私の方が恥ずかしくなった…。←




悠希「照れてる?(笑)」

七海「照れてるけどなにか?(笑)」

悠希「ははっ。かーわいっ(笑)」

(バシッ)


悠希「痛ってぇ!
  照れんなよどんぐり〜(笑)」











私、こんな時間が好きだった…。



最初は1人になりたかったけど、これはこれで落ち着いた。

悠希は一緒にいればいるほど落ち着く人だった。




まだ転校して間もないなのに、もう一ヶ月くらい経ったんじゃないかってほど時間が過ぎるのを早く感じていた。



こんなこと、初めてだ…。








穏やかだと思ってた。

だけどなにも知らなかった。

だから幸せだった。




私だけが、幸せだった…。





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