話題:片想い


このまま連絡を取らなければ、彼のことを思い出さなければ、私の中の彼はどんどん薄れてくれるんじゃないかな、なんて考えて、写真もLINEも見返さないようにしてた。

それなのに、無意識ってほんとにこわくって、気が付けばLINEの画面に【既読】の文字がついていないかを確認してしまって、カメラロールの中の彼の横顔を追ってしまって、薄れるどころか、余計に会いたくなるだけだった。


諦められるかも、なんて、思ってた私がバカでした。



***



木曜日の夜に、

《月曜に帰るけん、また連絡する!》

というLINEが届いたっきりで、月曜日になっても火曜日になっても、連絡がこなかった。

たぶん、帰ってきてすぐにテストが始まってしまって、親御さんも家に来ていて、忙しい日々を送っているんだろうな、なんて、分かってたはずなのに。

わざわざ彼は、こうなることを事前に教えておいてくれたのに。

やっぱり連絡が返ってこないのは心配で、彼の中の私が薄れてしまうのはいやで、水曜日が我慢の限界だった。


《月曜に帰ってくるいうてたけど、もうこっち帰ってきとる?》

と、あくまでも無難な文章を考えに考え抜いて、送信した。


返事はいつも通り、真夜中だった。


《火曜に帰ってきとった!もうくたくたー》
《いま親家に来とるけん、しかもばあちゃんが退院するまでは毎週土日大阪帰ることになった!》
《ばあちゃんの退院が5月の終わりか6月の最初やけん、それまではハードだよー》

《そうなん!なんかあったんかと思って心配したわ!》
《おばあちゃんはやくよくなるといいなー》

《ごめんな!ありがとー心配してくれて》
《とりあえず親おるけん、友達も家に呼べんしバイト終わってすぐ家帰らな怒られる笑》

《それはしんどすぎる》

《厳しくない?笑》

《中学生みたい笑》


いつにもなくまともな長文のLINEが届いて、心臓が一気にうるさくなった。

でもやっぱり、彼はどこまでもずるい人だ。

私に教える必要なんてないはずなのに。彼女でもない私に、当分先の予定なんて、話す必要はないはずなのに。

こうやって全部教えてくれて、謝ってくれて、浅はかな私はまた、期待することになる。



この6日間で色んなことを考えて、自分の性格の歪みを思い知って、さらに色んなことを考えた。

勝手に疑ったり、勝手に勘繰ったり、勝手に舞い上がって勝手に落ち込んだり。どこまでも自分勝手な私だった。


結果、彼は私と関わるにはすこし、純粋すぎると思った。

そんな彼と一緒にいることが、そのうち恐くなってしまうんじゃないか、とも思った。

だから、このまま連絡がこなければいいのかな、なんて考えて、またすこし苦しくなった。


きっと彼さえいなければ、彼と関わってさえいなければ、いまだって私は"けいちゃんだけ"だったはず。

関わろうとしたのは私なのに、近寄ったのは私なのに、責任転嫁にもほどがある。

でも、抱きしめたのは彼で、キスをしたのも彼で、私に途方もない恋心を抱かせたのも、彼だ。

彼が悪い、なんてもちろん言わないけど、心のどこかでそうやって押し付けて、逃げてる自分がいる。


逃げたい、と思った。

やめたい、と思った。

こんな気持ち捨ててしまいたい、と思った。


でもきっとそれは本心じゃなくて、そう思うことでけいちゃんへの罪悪感から逃れようとする私が、自分についた嘘だ。

解除されっぱなしのマナーモードが、私の本心を一番如実に表していた。


私には、彼に恋する資格なんてない。

なんて、腑抜けたことは言わない。言えない。


日が経てば経つほど、抗えなくなる。

私は彼が好きだ。

佐田くんが好きだ。

本当にどうしようもないくらい、彼のことが好きだ。



誰にも負ける気がしない気持ちなんて、いつぶりなんだろう。




コメントありがとうございます。

追記でお返事です。