赤い背景に黄色いMが特徴的なハンバーガー店。
今日俺とマークはここでいわゆる職場体験というものをすることになったのだ。
まさかアメリカに来てまで職場体験をすることになるとは、苦笑せざるを得ない。
「…うぅっ」
「かなり緊張してんな」
一緒に職場体験をするマークはというとガチガチになっていた。
信じられないかもしれないが、これがFFIでアメリカ代表ユニコーンを率いていたキャプテンなのだ。
「は、初めての職場体験で緊張してるんだっ」
「まぁ、分からんでもないけどさ。ほら、笑って笑って」
「頑張ルンバ!」
こりゃかなりテンパってんな…。
こんな状況で果たして上手くいくのか不安で仕方ない。
俺はこっそりと溜め息をついた。
「土門、俺だよ☆」
「ヘイマーク!遊びに来たよ!」
おそらく知り合いの一人や二人に会うことになるだろうとは思っていたが、まさか本当に会うことになるとは思っていなかった。
よりによってチームメイトだった一之瀬とディランだから余計にタイミングが悪い。
「…来やがったなお前ら。しかも客少ない時間ピンポイントで」
「ディランは常連だから、お客さん少ない時間はだいたい把握してるんだってさ」
客が少なく時間を把握しているくらい常連になっているディランを一瞬尊敬してしまいそうになる。
が、慌てて首を横に振った。
「マークの制服姿とってもキュートだよ!」
「そ、そうか?///」
ディランとマークの間にちょっぴり桃色な空気になる。
制服が可愛いと言っても俺だって同じ制服を着ているわけなのだが、ディランから見ると特別に見えるのだろうか。
…いかん、空気に流されるな俺!
「…お客様、注文しないならお帰り下さい」
「土門のいけずー!」
「俺ら遊んでるわけじゃないからな?」
一之瀬が唇を突き出しているが知らん顔をしてメニューを差し出すと、マークも仕事中だと思い出したのか慌てて戻ってきた。
ディランもまた唇を突き出しながら一之瀬とメニューを眺めている。
本当にコイツらは何をしに来たのやら。
「じゃあね、アイコンチキンソルト&レモンのセットと」
「ソルト&レモン、っと」
「スマイル下さい!」
チクショウ、絶対誰かやるだろうって思っていたがまさか身内にやられるとは。
「あっ、俺も俺も」
俺も俺も、じゃない一之瀬。
そしてディランもニコニコしながらこっち見んな。
「お前らな…」
「だってこのメニューには書いてあるよ」
「しかもタダ!」
「職場体験の学生に無茶ぶりすんな!」
確かにお前ら、特に付き合いが長い一之瀬は『スマイル下さい』なんて無茶言われても簡単にこなしてしまうだろう。
笑顔を作るのが上手な一之瀬とディランだが、俺らは反対に笑顔を作るのは下手なのを分かっているのか。
…いや、もしかしたら分かっていてわざとやっているのかもしれない。
「ほら、マーク!ほらっ!」
「スマイルスマイル」
「うっ…」
俺が渋っている間に矛先がマークに向かっていた。
マークは真面目なヤツだから二人を相手に頑張って笑顔を作ろうとしている。
…が、緊張していて全然笑えていない。
「…マーク、何もこいつらの言うこと聞かなくたって」
「こ、こうか?」
マークがはにかみながらも二人に笑顔を向ける。
するとディランが顔を真っ赤にしたかと思うと急に一之瀬の後ろに隠れた。
マークのはにかんだ笑顔にやられたらしい。
「あ、手が勝手に」
携帯電話の電子音が聞こえたと思ったら、俺がディランの反応に呆れている間に一之瀬がマークの写真を撮っていた。
「写メ撮るな!恥ずかしいじゃないか!!///」
「カズヤカズヤ!後でミーに送って!!」
「OK」
マークが顔を赤くしながら怒るのは当たり前の反応なのだが今の二人には聞こえていないようだ。
我らがキャプテンのマークが不憫なキャラに見えてきて、思わず俺はマークの頭を撫でていた。
「…で、お会計は」
「はいクーポン」
「…クーポンで割引して、お会計580円でございます」
「はい。おつりはいらないよ☆」
「580円丁度お預かりいたしまして、こちらレシートになります」
「…土門冷たい」
二人のせいですっかり忘れていたが、今の俺らは従業員と客という関係だ。
冷たいと言われる筋合いはないのだが、一之瀬はまた唇を尖らせた。
「右側の列で少々お待ち下さい」
「ねぇねぇ店員さん、終わったらミーとデートしない?」
「何マークナンパしてるんだよディラン!」
いつもの癖で頭をひっぱたいてやりたくなったが、今の俺は従業員だからそんなことはできない。
マークはというと、やっと落ち着いてきたというのにまた顔を赤くしていた。
「土門、俺土門のスマイル欲しい!」
「また今度な」
「土門のケチ!!」
頼むからレジの前で喚くな一之瀬!
これは後で絶対に叱られるだろう、ここの店長は鬼のように怖い人だったような。
俺は無意識にまた溜め息をついた。
その後もユニコーンのメンバーが入れ替わりで来たため、あんまり仕事にならなかった挙げ句店長にめっちゃ怒られたのは言うまでもないことだ。
最近放置ですみません(汗)
ぴくしぶに挙げた職場体験ユニコーンのおはなし。