きっと彼の中では、もう、なかったことになっているのだろうとおもう。


彼にとってあたしの気持ちとか想いとか、そういうのってきっとどうでもよくて。


それがわかっていたから、いままで口にしなかった。伝えなかった。


それでもどうしようもなくなってしまったから、知ってほしくなったから、心の奥底でもいいからあたしに想われているんだってことわかっていてほしかったから、初めて伝えたのだけれど。


「離れたくない」と
「ずっと一緒にいたいの」と
「前に進みたい」と
「ずるいのはあたしじゃない」と。



彼にはどーでもいいことだって、痛いくらいわかった上で。

彼がこれ以上の関係を望んでいないことも、わかったうえで。




いや、少しは期待していたのかもしれない。

ううん、期待してた。

もしかしたら、あたしを選んでくれるんじゃないかって。


もちろん選んでくれるわけもなかったのだけれど。




「お前が笑っていてくれるならそれがいちばん」

「お前が悲しむならもうこういうことするのやめる」


そういいながらあたしの手を握る彼をたたしはまた拒むことができなかった。


すこし、距離をとった彼をみて離れてほしくないとおもってしまった。




都合のいい女でも、そういう関係だとしても、彼のそばにいられるなら


彼が求めてくれるなら


それでもいいとおもってしまった。




ばかだなあっておもう。

じぶんでもじぶんに呆れてしまう。


でもそれ以上に、彼のそばにいたいと強くおもってしまうじぶんがいて。




あたしがあのとき、NOと首を振っていたならおわってしまったであろう関係をあたしが、あたし自身が続けることを選んでしまった。




やっぱりずるいのは、あたしなのかなあ。




その日、今まででいちばん彼が優しかったから。

あまりにも優しく抱かれてしまったから。


彼の眠る姿をみて

しあわせすぎて、このまま時が止まればいいのにとおもってしまった。