※創作女審神者注意
あみだくじの結果をもとに書いた、にっかりさんが(色んな意味で)かわいそうな話。
かっこいいにっかり青江はいません。
審神者とひたすら下品な話をしているだけです。
審神者が尻軽です。
そういった類のものが苦手な方はページバックをお勧めします。
ギャグだと言い張る。
「とりあえず、四十八手どこまで出来るかやってみようか、主」
「ごめん、何がとりあえずか分からないし、やらないからね?」
せっせと執務室で書類整理をしていた審神者は、何気なく執務室にやってきて無遠慮に審神者がこっそり隠していた茶菓子を貪っているにっかり青江に対して、特に咎めることもなく好きなようにさせていた。
しかし、あまりに脈絡のない彼の言葉に審神者は作業する手を止めて、青江の方を向いた。常時装備された微笑みが、こんなときでもしっかり作動してくれたことに審神者は心底自分を褒めたくなった。この際、少しばかり滲んだ戸惑いは見逃して欲しい。
「僕なりの精一杯の誘い文句を、君は無下にするのかい?」
「それがにっかりさんの脳みそが弾き出した最良の誘い文句だとしたら、私はにっかりさんに対する評価を変える必要があるのね」
「というと?」
「下ネタ好きのこじらせ系男士から、今世紀最大の中二男士へジョブチェンジ」
二人は無言で、それはそれは素晴らしい笑顔で睨み合った。
十秒とも、一分とも、一時間とも取れる体感時間をそれぞれ感じながら、しかしどちらも目線を逸らすことはなかった。
その長いとも短いとも取れる沈黙を破ったのは、青江の方である。
「主、僕は君と性交渉したいだけなんだよ」
これまで見せたこともないような真剣な顔をして、ものすごくどうしようもないことを言った青江に、どんなに整った顔でも受け入れがたいものがあるのだと審神者は心の中で事実を再確認した。
「そんなにしたいなら、いつもみたく気持ち悪いくらい過剰な接触しながら気持ち悪くエッチしようって言えばいいじゃない?」
「主が僕にだけ厳しいような気がするのは気のせいかな?」
「にっかりさんも皆と同じくらい好きだよ?」
あっけらかんと笑うこの主の心情を読み取れる者は、この本丸に一体何人いるのだろうかと青江は思った。青江とて、この審神者に仕えてる刀剣男士の中では古参の方ではあるが、深いところまで主を理解するには未だ至っていない。理解しようにも、人の身を授かって日の浅い彼には、人の複雑な心の構造を更に複雑にしたような審神者の心は、紐解く気すら失せてしまう代物であった。
「それで結局、にっかりさんはエッチしたいってことでいいの?」
「え、してくれるの?」
「四十八手チャレンジはしないよ?」
「しようよ」
「無理」
青江がそうしたいというなら、そこに男女のあれやこれやといった感情が全くなくても身を差し出してしまうのがこの主である。青江の言う「性交渉」とて既に彼と幾度となく交わしてきたし、青江以外にも主と交わった刀剣男士は何人かいる。そのため、今更その行為自体を拒否するなんて考えは、審神者の頭には一ミクロンもない。
「あのね、忘れてるかもしれないけど、病弱設定で体力もない私にそんな無茶望めると思ってるの?」
「今サラッとメタいこと言ったよね?」
「にっかりさんはメタいなんて言葉何処で覚えたの?」
「禁則事項ですっ」
「……」
「ごめん、今のは自分でも無理したと思ってるよ」
物凄く、盛大にあざとく決めた青江に審神者は返す言葉が見付からず、とりあえず笑っておこうと某ファーストフード店顔負けの完璧な社交辞令の微笑みを浮かべた。
普段から笑顔が一番とは言っているが、そんな主の笑顔は見たくなかった青江の謝罪は早かった。そのお陰か、審神者は目の前で起きた事件をそっと闇に葬ったようである。
「思ったけど、時雨○臼とか百○とかなら既に実践済みだし、出来る範囲に絞ったところでほぼ遂行してる思うんだけど……」
「う○ろ○ぐらはやったことないし、出来ると思うけど? 主って率先して乗っかってくれるけど、乗っかられてはくれないよね?」
「だって、主導権は握っておきたいというか……。私が気持ち良くなりたくてエッチしてるわけじゃないし、気持ち良くなって欲しくてエッチしてるんだし、私が気持ち良くなる必要はないじゃない?」
「そう言えば、君があんまりにも巧くて忘れてたけど、君がイクとこって見たことない気が……」
「女は皆女優だって、どっかの偉い人が言ってたと思うよ!」
正直、少なからずというかかなり好いている女性に「やることやってるけど、気持ち良かったとは言っていない」発言をされて、いくら脳内が万年中学二年生の春状態の青江であっても、相応に切ないものがある。男の矜持がささやかながらにも傷付いてしまったのは、致し方がない。
「ほら、イクのだってまあまあ体力使うし、私もそんな若くないし……」
「確かにそれはそうだね」
「それ、どっちに対する同意?」
「ねんれ」
「女性にとってその手の話はデリケートだから、気を付けようね?」
自分からその話題を振っておいて笑顔で圧力をかけるのは良くないんじゃないかな、という言葉を飲み込んだ青江の判断は間違いなく正しかっただろう。時に理不尽な女性の心情を読み取るには、審神者以外の女性を知る機会もなく知るつもりもない青江の経験値は大分不足していたが、今回はその数少ない経験が生かされた結果とも言える。
「じゃあ、歌仙君とするときはどうしてるの?」
その代わりに発せられた苦し紛れの一言は、青江にしてみれば本当にただの思い付きで出た言葉である。
「えっ?」
故に、審神者にとってその一言がとてつもなくとんでもないものだったと、青江が気付くには既に遅かった。
あの、人を驚かせることに人生ならぬ刀生の全てを掛けているような鶴丸国永にすらその微笑みを崩させなかった主が、目を真ん丸にしていかにも「驚いた」という顔をしている。
「なん、で、歌仙?」
「想い合ってる仲なら、違うのかと思って」
主と近侍を務める歌仙がそういう仲だと知っている者は少ない。それほど、二人は隠すことが上手だ。しかし、それでも気付く者は気付くし、気付いたからといってわざわざ口に出すこともない。二人が隠しているというなら、その意を汲んであげてもいいかなくらいには青江も思っているし、気付いている者がいることに気付かない二人でもない。
だから、もっと何事もなかったかのように流されると青江は思っていたのだが、現実はそうとはいかなかったようだ。
「想い合ってる……」
青江の言葉を反芻した審神者は、両手の平で自らの頬を挟んで俯いた。
明らかに戸惑った様子と真っ赤になった耳を見て、何も察せない青江ではない。
「違うのかい?」
「違わない、けど……。改めて言われると、恥ずかしい……」
顔を真っ赤にして、瞳は薄らと潤み、どこか嬉しさを噛み締めているようにすら見える主を前に、青江の胸に何かがチクリと刺さった。刺さったものが何なのか、青江は知っている。知ってはいるが、知らない振りをした。知ったところでどうしようも出来ないものだと、青江は何度目かの経験で気付いたのだから。
「ねぇ、主」
「なに?」
ならいっそ、と道化になることを決めたのも青江自身だ。
「今滅茶苦茶したい気分なんだけど」
そんな青江の突飛な言動に審神者は、二、三拍程間を置いて、そして何かに気付いたように含みのある、普段と変わらない微笑みを彼に向けた。
「仕方ないなぁ」
少しだけ熱を持った指が、青江の頬に触れた。
終わる。