家庭教師ヒットマンREBORN!で『台詞一つでショートショート』なお題バトンI
小説(ショートショート)用の、ちょっと特殊なお題バトンです。
文中のどこでも構わないので
「幸福も不幸も善も悪も、所詮それぞれの価値観でコロコロ変わる様な薄っぺらいものだと思わない?」
を入れてショートショートを創作して下さい。ジャンルは問いません。口調等の細部は変えても構いません。
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連れてこられたのは、リムジンの中で見た花園だった。様々な花が咲き誇っている。白蘭は家康と屋敷の奥に、桔梗はナックルと共に何処かへ。ザクロはエントランスで暴れ始めた。
この食えない男は夏本番前だというのに薄手の長いコートを着ている。ポロシャツとニーハイブーツは黒い。ポロシャツにしめているネクタイとパンツは白だ。
「それにしても、珍しい男だ。見ただけで彼に嫌われるなど」
「そうですか」
感情込めずに答える。
「彼の弟君と仲良くしたいという希望は叶いませんよ」
「やはり、これも家康さんのいう『テスト』の一貫ですか」
左様、とデイモンは酷薄な笑みを浮かべた。
「一番希望があるのは、花の名前の男ですね。ナックルはああいう争い事を好まない臆病者に甘い。次に言えば、暴れん坊な彼…Gは家康の右腕だ。それになかなか見込もある…──あの中で一番強い人間をアッサリと選び抜くとは、相当な手練れだ…」
ヌフヌフ楽しそうに笑っているが、面白くとも何ともない。この男に誉められると、かなり不愉快だ。間違いなくろくなこと考えていない。あとでザクロにはこの男に注意するよう言っておこうと思う。
そして、自分はその対象物になっていなくて実に良かった。
「それにしても…──何故、君は嫌われたのでしょうねぇ? 私は、非能力者には興味がとんとないのですよ」
ん〜、とこちらを振り向いた。
辿り着いたのは、ここも綱吉の実家の敷地内である…──『林』。花園から少し離れた所にあって、さっき植物園らしき全面ガラス張りの建物を越えてきた。
何やら言いたげたが、内容は分かりきっている。こいつもそこら辺のチンピラと同じことを言うつもりだろう。
やはり、と目を細め。
「その紅い目が気味悪かったんでしょうね」
***
「ねぇねぇ、オニーサマ? あのダブル稲妻のパイナップル男はオトモダチ?」
「一応、そうだ」
ふーん、と家康は白蘭を連れてまだ廊下を歩いていた。
「あのつり目のオニーサマだってやる気はなさそうだったけど場の空気には馴染んでた。けど、あのデイモンとかいう人は全然空気違ったよ。アレって、僕らの何かを『判断』するための余興でしょう?」
「余興か。酷いことをいう。私は本気だ」
まぁ、いいけどぉ、と白蘭は頭の後ろで手を組んだ。
「一体、何を基準にテストするつもり? 人柄とか? だったら骸クンを『あんなの』に預けられるのは不愉快かなぁ。一応、幼馴染みだし、一番マトモだよ」
あることを除けばね、と白蘭は飲み込んで言わないでおく。骸の中の『決まりごと』は骸の中の喜怒哀楽の『怒』を全面的に押さえ込む役割をしている。
幼馴染みでありながら、それ以外の理由で本気で怒っている所を見たことがない。
但し、外されたら目も当てられない。
それは、桔梗も真似をして信条としている。
むくろ、と家康は呟く。
それから思い至ったように顔を少し上向けた。
「あの、綺麗な紅い目の青年か」
***
おおよそ、デイモンや家康が生きている世界では、殺し屋をヒットマン。あるいは『プレイヤー』と呼ぶ。(あれ、と思われた方。僕も西尾さんのファンであります)
家康を更に甘くしたような弟が連れてきた友人の中でも、骸はそれは大人しく、同時に禍々しい雰囲気を持っている青年だった。あの中では間違いなく、喧嘩屋よりも、ヤクザよりも、自分達が属しているマフィアよりも『殺し屋』の類いが持つような雰囲気だった。
油断をしたつもりは無かった。
無かったが。
「君! 飛行機に乗ってきたのでしょう!? 何故、金属探知機にそれほどの量の『ナイフ』が引っ掛からないのです!?」
「クハハ。知りません。空港会社の金属探知機が壊れていたのでしょう。だから検問を越えられた。簡単なことです」
「そんな話が簡単なわけないでしょう!」
とす、と股の間にナイフを、それはダーツの要領で投げつけた。
既にフード、両脇がナイフで木に縫い付けられている。
彼は『術師』だ。
しかも、体術も兼ね備えている攻撃特化タイプの術師だ。幻覚能力さえも気味が悪いほど高い。
「分かりました! 貴方の実力は認めます! 認めるからナイフを投げるのを止めなさい!!」
「クハハ。実力など貴様に認められた所で何だと言う。そんなもの、幸福や不幸、善と悪。その人間独自の価値観でコロコロ変わるものと同じだ。そんな薄っぺらいものを貴様に認められたとして、何が喜ばしいか。そうだと思いませんか、デイモン」
この、悟りきったようなクソガキは!
デイモンはまた服の中から抜き取ったらしいナイフを握った骸に忌々しさから睨み付けた。
***
「ほぅ。あのオッドアイの青年が師匠なのか…──」
はい、と桔梗は屈託なく笑んだ。
そうか。あの青年が。
独特の雰囲気がある、あの青年が師匠…──この笑顔は本気で信頼している顔だ。
これはデイモンがなんと言おうと信用できる青年なのは間違いない。
桔梗は師匠は言ってくれました、と目を閉じた。
「力を得ることは、道を誤りやすい。だから正しく歩けるように自らを律するように言われました。しかし…──私達は神ではない」
ふいに、桔梗はふっと笑った。
それは、感慨に耽っているように。
それから桔梗は苦笑した。
「我々は神にはなれない。決して万人に慈悲を与えられない。罪人を許すことなど出来ない…──神のような御心を持てと言いますが、人間には無理であると…──」
ナックルは、まるで自慢するような桔梗に目を奪われる。
「ですが、さらに『神とは哀れだ』と言いました。自らの怒りのために、力を振るうことを許されていないのです。誰かを守るために、一心不乱に振るうことを禁じられている…──それをするだけで、たくさんの命を薙ぎ払えてしまうから。だから、私達は例え暴力を是としなくても、怒りのままに力を振るうことはしていいのです、と」
そうして、桔梗はただし、と呟いた。
「誰かれかまわず振るうのは愚か者の行為だ。力を得て、使い方を謝った人間のやることだ…──だから1つだけ、許さなくて良いことを決めなさい。その時は構わず暴れていい。力を振るっていいと…──こんなことを牧師様の前で話すなんて忍びないのですが、私は師匠のその教えはとても好きなのです。ですから私も、そうしているのです」
桔梗は続けて、まるで純粋な信者のように困った顔をしている。
「ただ、師匠は本当に容赦がないのです…──あのデイモンという男が…──」
***
少し、心配ですね。
花の名を持つ青年の予感は、抜けるような青空の下で適中することになる。