確かそれは、僕がその人のことを、"ママ"から"お母さん"と呼び始めた頃のことで
それは僕にとって、少なくともその頃の僕にとっては一大事だったから
彼女がそれに気付かなかったことが
多分僕をそうさせた。
彼女は潔癖症でヒステリックだった。
だから当然「駄目よ」、そう言われることも分かっていた。
だけどその野良猫は、確かに僕を呼んでいたから。
"お母さん"が朝食に目玉焼きを皿に移して持ってくる。
子供はいい身分だと思う。
僕の足下に擦り寄ってくるこの猫には、何も与えられないのだから。
母はそれを見て、癇癪を起こした。
触るのも嫌だと言って、猫を蹴って払った。
だから僕はその日の夕刻、路地裏の猫の溜まり場で
無防備に僕に着いてくるその猫の、細い首を掴んで、
僕はついにその猫を、
僕だけのものにした。