※死ネタ
頭が痛かった。
己の奥底に存在する芯がじんじんと熱を持ち、霞がかった視界に陰がぶれる。
「大丈夫かよ小十郎」
労るような声音に顔を向ければ、眉を垂らした男が見えた。
長い黒髪、高い上背、美麗な顔立ち。
何よりも愛おしい男だった。
「心配ねぇ、日に当たりすぎたんだろう」
「自分を蔑ろにする気があるからな小十郎は」
どれだけ心配してると思っているんだ。
膨らんだ頬に苦笑を返す。
お前ほどではねぇさ、と。
呟いた声は何処か勢いに欠けていた。
「今年の胡瓜も出来が良い。喰うか?」
「もらうもらう」
「今持ってきてやる」
花の綻ぶような笑みで年甲斐もなくはしゃぐ男に安堵し、小十郎は未だ断続的に己を襲う眩暈をふるりと払いのけた。
「小十郎」
「政宗様」
畑に向かい足を踏み出そうとした小十郎を引き留めたのは、小難しく顔を歪める主であった。
どうかしたのであろうか、傍らの男へ戸惑いを向けると、男も同じような困惑を表にした。
「小十郎、お前、本当いい加減にしろよ」
「政宗様、小十郎には何の事やら解りかねますが」
「何って、お前、覚えてないのかよ」
「思い当たることは何も…おい來海、政宗様に何かした訳じゃねぇだろうな」
「まさか、するわけないだろ」
困ったように頬を掻いた來海にこみ上げる激情を飲み下し、小十郎は首を傾げた。
「政宗様、」
「來海は、テメェを庇って死んだだろうが!!」
「御戯れを、」
政宗の声が小十郎の鼓膜を揺らす。
揺らすだけで理解は出来なかった。
何を馬鹿なことを。
普段ならば絶対に口にしない砕けた態度で、小十郎は政宗に微笑みを向けた。
何処か壊れたような仕草で濡れ縁を振り返る。
つい先程まで確かに存在していた男の姿は、影も形も残っていなかった。
「政宗様、來海をお見かけになりませんでしたか」
「小十郎、」
「まったくあやつは、目を離した隙にふらふらと」
「小十郎!!」
焦点の合わぬ虚ろな瞳に背筋が戦慄く。
政宗は挫けそうになる心を奮い立たせ、小十郎の肩を揺さぶった。
「來海は天下分け目の戦場で死んだ。看取ったのは、お前だ」
「可笑しな事を仰る。政宗様も御存知の筈。あれは死霊…人の類にやられて死ぬわけが御座いますまい」
「死んだんだ、法力の籠もった刀で一太刀、塵芥になった。思い出せ」
來海は何処に行ったのだろう、このような作り話、言って良いことと悪いことがあると政宗様に言わなければ。
來海は何処に行ったのだろう、今年の胡瓜には自信があるのだ、姉が水羊羹を下さった、西瓜とて冷やしてあると言うのに。
頭が痛かった。
頭が痛かった。
頭が痛かった。
來海は
頭が痛い
何処に
頭が
來海
割れ
來
己の奥底に存在する芯がじんじんと熱を持ち、霞がかった視界に陰がぶれる。
現れた姿に熱く安堵の息を吐いた。
やはり政宗様は間違っていらっしゃる、あの男が死ぬわけがないのだ。
背を刺し貫かれても、首をはねられても生きていた。
だからこれからも生き続ける。
『小十郎、気分でも悪いのか?』
「何て事はねぇ」
『そか、無理すんなよ』
「ああ…」
『じゃあほら早く胡瓜頂戴』
「がっつくな、犬かお前は」
「酷くね?」
「今持ってきてやる…後で政宗様にもお持ちしねぇとな」
「政宗も喜ぶだろうな」
「ああ、湯浴みで泥を流したらお前にも付き合ってやるから大人しく待ってるんだな」
「ああ、そりゃ…楽しみだ」
密のような甘さを含んだ來海の声が己を包む。
痺れにも似た感覚に目を細め、小十郎はふと目の前の人物へ身体を向けた。
「政宗様、この様なところで如何致しました」
【崩壊カタルシス】
「無理言って悪いな一護、」
「別にいいってパソコンぐらい…つか此処パソコン使えんのな」
「おう、重国がそろそろ地デジ化進めようって言ってたし。現世の番組も見れるぞ」
「へーそりゃすげぇ…、っと。インストール出来たぜ」
「おー、さんきゅ」
「しかし…なんでいきなり」
「店で見かけて面白そうだったから衝動買いしちまった」
「使いこなせんのかよ」
「やってみなきゃわかんねぇだろ?」
「初っ端から頼ってる時点で怪しいけどな」
「うっせ!…お、やっと100パーセン……ト?」
「貴殿が拙者の主でございまするか?」
「……俺の知らない間に科学はえっらい速度で進んだんだな一護、画面から侍が出てきたぞ」
「んなわけあるか」
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やっちまった歌夢
茄子侍好きです。