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番外編〜5階の話〜

今日お母さんが
おカネを請求してきた



一つ一つ
私がこの家で
暮らしている一つ一つ

お金に変って
私にソレを返せと言う

悲しい
だったらなんだ
わたしは
今までお金で暮らしてきたんだ
母でも
父でも
親でもなく
お金に
育てられてきたんだ
熱を持たないそれらは
やがて
返さなければならない
つめたいつめたい
家だ
だけど
あたりまえなんだ

107号室〜狂恋〜

初めて恋をした。
私が好きになったのは、





月。





私の声は今日も届かない。
どんなに叫んでも
どんなに遠吠えても
犬である私は月に届くはずもない。
四つん這いで、地に近い私に空にあるあなたを愛する術はなかった。

毎晩祈った。
毎晩祈って
毎晩泣いた。
"かいぬし"といわれる者が、私を殴って黙らせる。
けれど私は殺してほしいと願う。
死んでしまえば星になれるのだというから。
願う。

ある晩、"かいぬし"が殴る手を止め、私を見つめて言った。
「団地はペット厳禁なの。私はアンタをおいてやってんのよ。これ以上吠えるようなら、殺すしかないわよ。」
私は、
やっとの思いで立ち上がり、噛み付いた。
「っいやぁ!!!痛い!」
"かいぬし"は思い切り私を外へ投げ出した。
窓の、外へ。
私のいた部屋は5階。

私が待っていた瞬間がやって来た。


墜ちる


涙が止まらなかった。
嬉し泣きだった。




私は今、人間として生きている。
星にはなれなかったけど、
犬の頃の記憶を持っている。
そして、幸せな暮らしを送っている。
107号室で。
私を墜とした"飼い主"は"飼い犬"に噛まれ、病気になって死んだらしい。もう、18年も前の話だが。
有名な話である。

106号室〜hear〜

「お疲れ」
「ふぅ。マジで疲れたよ」
「だから、言ったろ?」
「だからって、嫌な役目は任せられないよ」
「お前はいつもそうだな。俺を兄だと思ってない」
「思ってるよ。フツーの兄弟でもそこまで甘えないよ。シン」
「兄貴と言え」
「ふ、今更」


私は兄を持っている。
そう、言った方が当たってると思う。なぜなら彼は、見えないからだ。

私にも、周りにも。


私は生まれたときから"声"が聞こえた。私にしか聞こえないそれは声のみの存在で、なのに強くそこにあるようだった。
幼い頃は普通に話をしていたが、親に気味悪がられていたため、私は一人でいるときしか話をしなくなった。
名前をシン。
私の2コ上の兄。
私が苛められた時には助けてくれた、優しい人。
小学校低学年の時に私は男子に苛められていた。
下校時に石を投げられ、罵声を浴びせられた。
すると、シンがキレた。
私は体に力を入れることがかなわなくなり、フワリと宙に浮く感覚を覚えた。
その瞬間、私は叫んだ。
「てめぇ!許さねぇ!!」
私は男子に殴りかかり、タコ殴りにした。
それ以来、その時の男子は私に近寄らない。そして私も、シンに体を貸さなくなった。
「あの時みたいになったら厄介だから」
「タコ殴るような役じゃないだろ。今回は」
「…そうだけど!」
私の兄は優しい人。
このままずぅっと
この関係でいられればいい…
そう、思っていた。

戦える者〜105号室〜

若い時に総長をやっていただけあって、今の自分の役割は性に合っていると思う。


「総長!うちのシマの奴等がサツに捕まりました!」
「何ィ!?」
「しかも交通違反だそうです!」
「あぁ?んなマヌケな捕まり方があるか!!総長会議でなんて言われるか……はぁ」

総長会議は月一で開かれる。
あらゆる地域の族(暴走族)の総長が集まり、その月に起こった事件などを話し合ったりしている。
私は女総長だから、ナメられることが多い。

「この間、犬江のトコの野郎が捕まってたなぁ。ハハ」
「るせぇよ。テメェんとこも覚悟してねぇと木場と春日が無茶ばっかしてるぜ?」
「サツに捕まるなんてヘマぁしねぇさ。なぁ?女総長サンよ。」
「クソみたいなへなちょこ総長よりマシだろ。川西?」
「アァン?このアマ!覚悟しろや!」

流血の喧嘩は日常茶飯事。
サツに追いかけられるのも。だけど、私は出会う。
人生を変える、あなたに。

必要性〜104号室〜

「お金返してくださーい!」
まただ。
「居るのはわかってますよ!お金返してくださーい!」
もう少し待ってよ。
「何にそんなに使ったんですか。」
決まってるじゃない。
私が見放せばかわいそうな子が居るのよ。
死んでしまうのよ。
わかる?
あなたなんて生きられるからいいじゃない。


夜中までドアを叩く音が激しく響く。
「まだ帰ってないみたいよ。春川さん。また明日来なさい。」
隣りだ。


私は今まで、悪いと思ったことがない。
年に一度回ってくる班長になった時に皆から必要だと回収した金を使ってしまった時も、
仲間だと言い寄って年寄りをだまし、金を巻き上げた時も、
長く寄り添った旦那が病を患い、それを見殺しにした時も……
大切なもののためにやったのだから、ちっとも良心は痛まない。
そう、
私は私しか必要としていない、私がいなければ生きられない彼女を守るため。
今日も彼女らに配給をする。ベランダから餌を撒く。
他の住人には嫌がられるが、いいじゃない。
あなたたちは生きられるんだから。


ある日、
私は竹の棒を何本か拾い、ベランダや様々な窓をそれで塞ぎ、
彼女を家に入れた。
彼女は私が餌をちらつかせると、何のためらいもなく家に上がった。
私は彼女を外の悪い物から守るために
彼女を家に閉じ込めた。

最初の頃は、彼女も私に懐き、一日中私の側で笑っていた。
だが、月日が経つに連れ、
彼女はこの部屋を嫌がるようになった。
外に出ようとしたり、尿を撒いたり……
私は彼女が私を必要としなくなったのだと、確信した。
それと同時に、彼女に対する愛も消えていった。
私は彼女の餌に毒を混ぜ、彼女に食べさせようとした。
彼女はそれを一口食べると、私が開けた扉の向こうへ走り去った。


「何これ!ママ!猫が死んでる!!」
「車に撥ねられたようには見えないし、悪い物でも食べたんじゃないかしら?」


今、私の部屋には大切な大切な、私を必要としてくれる子たちが…………
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