2023/10/18
Wed
20:32
実力者たち1
「マリア、本当にハシ国へ行くんだね」
早朝のレフト王宮の門前で、アイビカは寂しそうに言う。
荷物をまとめたマリアは心配させないよう笑みを浮かべ、仲間を見た。
「大丈夫、上手くやるよ。私こそすまない、こっちでの大精霊探しを投げ出す形になってしまって」
「気にすんな。後のことは俺らに任せて、取り敢えず雷の大精霊に認められて来いよ」
キールが言う。
「どこでどの大精霊が見つかるか分からないしな。急な離脱も仕方ない」
ディンも言い、仲間たちはこれから大精霊と対峙することになるマリアの背中を押す。
ラースから連絡が入ったのは昨日のこと。
直ぐにアロウが船の手配をしてくれ、今日の昼の便で渡航することになったのだ。
「ハシ国にはテト達もいるし、心配ないと思うけど…気を付けてね。皆によろしく!」
「ああ!」
「……と、そうだ。マリア」
ちょいちょい、とキールはマリアを手招きする。
「うん?」
近付いてきたマリアを、キールは両腕で抱き締めた。
ビクリと肩を揺らしたマリアだが、ああ、彼の国ではこういう挨拶は普通なのか。と納得して腕を回そうとすると、腰にグッと腕を回され、後頭部に手が回り強く抱き込まれてしまい、思わず変な声が出た。
頬に掛かる長い銀髪がくすぐったい。
後ろで、きゃあー!と言っているアイビカの視線も恥ずかしい。
「キ…、キー」
「protezione」
「……え?」
耳元で呟かれたキールの言葉は、何を意味しているのか分からなかった。もしや、彼の国の言葉なのだろうか。
今一瞬何かあたたかいものが身体に流れたような気もする。
いや、それよりも。
「キール、キール!」
「んぁ?」
やっと力を緩めたキールから離れて、マリアはふぅ、と息を吐く。こういう熱烈なコミュニケーションには慣れていないので、くすぐったくて仕方がない。
「熱烈すぎる。誰にでもこんなことするなよ」
相手が相手なら勘違いされるぞ、と照れくささを紛らわせるためにマリアが言うと、至極真面目な顔で
「誰にでもはしねぇ」
とジッと見おろされ、余計に恥ずかしくなったのだった。
「まーお前はニオと契約してるしなぁ、別に必要ねぇかもしれねーけど。俺の魔力をお前に移しといた。気配を残したっつった方が正しいかもしれねぇがな」
「ええ?!」
「雑魚避けにくらいはなるんだぜぇ?ま、仲間とはぐれねぇように気ぃつけるんだなぁ!」
あっはっは!と背中を叩かれ、マリアは僅かによろけた後クスリと笑みを溢す。
そうか、心配してくれたのか。キールだけじゃなく、ディンもアイビカも、旅立つ自分を案じてくれている。
じんわりと心が温かくなって、名残り惜しくなってしまう。
「お守り、ありがたく受け取っとくよ」
「おぉ」
そんな話をしていると、マリアの背後から声が掛かる。
「マリアー!そろそろ出発の時間だ!」
門の外の下り坂を少し下りたところで、克が手を振っている。
「わかった!」
大きな声で返事をしたマリアは、三人に手を振る。
「じゃあ、またな!」
「じゃーなぁ!」
「いってらっしゃい!」
「気を付けてな」
仲間達と笑顔で別れ、マリアは克のところへ掛け下りる。
短い黒髪がトレードマークの騎士隊長は、今日も陽気な笑顔だ。
「よろしくな、マリア!」
「こちらこそ」
ニッと笑みを向け、二人は城下町に下りていく。
王宮へ登る坂道を下りきると、足元は石畳から砂へと変化した。
「ここも石畳なら歩きやすいのになー」
マリアはざくざくと砂を踏み締めながら言う。
レフト帝国にも大分慣れてきて、砂を歩くことも最初の頃よりは上手くなってきたが、やはり普通の道よりは体力を持っていかれる。
「陛下は近いうちに城下町も舗装して暮らしやすいようにしたいって仰ってたよ。水を引いて噴水とか作ったり……それだけで、街の雰囲気は明るくなりそうだよな」
克が言う。
「それは良いな、レフト帝国も十年二十年後には随分発展してるのかも」
その頃に自分がリベルタにいるとは思えないが、何だかそんな未来を想像すると楽しくなるマリアだった。
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