2023/10/18 Wed 20:31
実力者たち2

「あ、いたいた、サイ!」

城下町をしばらく歩いたところで、克は手を振る。
その視線の先には、二人と同じように荷物をまとめたサイが立っていた。
共にハシ国へ渡る為、待ち合わせしていたのである。

「おはよう克、マリア」

「おはようサイ」

「おはよ」

三人は挨拶を交わし、直ぐに側に建っている建物に入る。
待ち合わせ場所は、転送装置施設の前だったのだ。
ここから一気に港へ飛び、あとは数時間船に揺られるだけである。

「これがあると旅が楽だよなー」

「そうだな、砂漠を歩き回らなくて良いのは助かる」

快適快適、とご機嫌な克にサイも同意する。
元々各地を回っていた為旅慣れはしているが、何度経験しても砂漠を越えるのは大変なのである。

「皆のチケット俺が持ってるから、ちょっと待ってて!」

そう言って克は受付に行き、手続きをして戻ってくる。

「早いな」

マリアが言い、克は笑う。

「陛下が全部話を通しておいてくれてるからさ。普通の手続きよりずっと短縮出来るんだ。船に乗るときもあっという間だと思う」

「それは有難い」

王族嫌いのサイも今ばかりは感謝の気持ちだ。転送装置は便利なのだが、利用するのに少々手間が掛かるのが難点である。

「さ、行こう!」

三人は魔法陣に乗り、強い光に包まれて消え、目を開けた時にはもう港に到着していた。

「楽すぎる」

マリアの率直な感想に、サイと克は笑った。

「船に乗る前に何か食べとく?」

「そうしようか。店なら沢山あるし」

サイは周囲を見渡す。
ここはレフト帝国で数少ない、まだ魚がとれる港である。観光地にもなっているこの地には、新鮮な魚介類が豊富に揃っていた。

「滅多に食べれないし、海鮮がいいなー」

「そうだな」

「じゃあ私も海鮮でいい」

克の希望通り、昼食は海鮮料理ということになった。
近くの店のテラスに座った三人は、各々食べたいものを注文する。

「レフト帝国で魚って、久し振りかも」

マリアは言う。
マツリカに食客として王宮滞在を許されてはいるものの、食事は王族達のそれとは別である。
騎士も同じく別なようで、魚を食べる機会はあまりないと克も言った。

「この国じゃ、年々魚が取れなくなってるからな」

サイは海を見つめながら言う。

「それって、瘴気汚染のせいなんだよな?」

確か、アスファルから漏れ出た瘴気が近海を犯し、魚が住めない魔の海に変わりつつあるのだとマツリカが言っていたのを思い出す。

「ああ。この国はアスファルと距離が近いからな。他の国よりも先に、色々な影響を受けるんだ」

先の疫病事件もそうである。
あれもアスファルからの瘴気濃度が上がった為に、弱いものや敏感なものから倒れることになったのだ。
マリア達が必死で手に入れた髄液で特効薬が作られたお陰で、感染者は日に日に減ってきている。
薬の買えない貧しい者達にも等しく薬が配られ、国民達は国を少し見直した様子であった。
王族や貴族が嫌われるこの国で、少しでも国のイメージを変えられたことはマリアにとって嬉しいことであった。



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