2023/10/18 Wed 20:29
実力者たち4


やがて船はハシ国の港へ入港し、適正な審査を受けた後に三人は港へ降り立った。
海岸の景色だけでレフト帝国とは随分と違う。
港から一本道が伸び、その周囲は森で囲まれている。空を見上げれば薄いヴェールのようなものが揺らめいていて、これがハシ国特有の結界なのだなとマリアは思った。
結界は道を守るように続いていて、ワギまではここを少し歩けばすぐであった。
異国の空気を感じながら早速歩き始めたマリアとサイに、克は声を掛ける。

「あっ、待ってくれ!」

振り向いた二人に駆け寄り、思いがけないことを口にした。

「もう一人、ここで合流する人がいるんだ」

そう克が言った時。
港にもう一隻の船が入港し、人が数人降りてくる。
小型の船は少人数だけを運んできたようだったが、その船はどうやらライト国籍のようで、マリアは首を傾げる。

「ライトの船だ」

「来たかな?」

克が桟橋を見ていると、荷物を持った剣士が一人こちらへ歩いてくる。
手を振った克に気付いたその男は、笑顔でそれに応えた。

「よぉ!待たせたか?」

「いや、俺達も今入国したところだ」

克とそう交わしながらやってきたその剣士を見つめ、マリアは目を丸くする。

「サクヤ?!」

「久し振りだな、マリア。レフトで大活躍だったんだって?」

にやにやと言う朔也は、サイに向かって挨拶をする。

「初めまして、ライト王国騎士団三番隊隊長の朔也だ。よろしくな」

「サイだ。よろしく」

朔也が求めた握手にサイも応じ、笑みを交わす。

「驚いた、サクヤも大精霊の応援に?」

「ああ、火の大精霊の方に行ってこいって陛下からの勅令でな。マリアは雷の方だろ?」

「うん」

今回派遣されてきたのは雷の大精霊対策にマリアと克、火の大精霊対策に朔也とサイということらしい。

「ま、暫くよろしくな」

克が言い、四人はまとまってワギへの道を歩き始めた。
ライトやレフトより少し湿度の高い空気を吸いながら、朔也は目を閉じる。

「はー……久し振りの故郷だぜ」

「そっか、サクヤはハシ国人なんだったな」

ライトの国王に使えているから、うっかり忘れそうになる。

「克もハシ国出身だろ?」

「ああ、すげーガキの頃の記憶しかないから、物凄く懐かしいとは思わないけどな」

今では二人、他国の騎士である。

「ハシ国は、剣士が育ちやすいと言われてるんだ」

サイが言う。

「へぇ?それはまたなんで?」

「ハシ国では近年他国でよく使われる銃が一般的じゃなくてな。昔からこういう刀を使って生きてきたものだから、剣術が最も染み付いた種族とも言われてる」

サイが自分の刀を見せる。
彼の刀は確かに剣とは違うもので、マリアはふむふむ、と観察する。

「俺もライトでずっと刀使ってるしな」

朔也も同じく反りのある刀だ。
克はレフト産の剣を使い慣れているらしいが、師のゼフィランサスは好んでハシ国の刀を使っているという。

「ハシ国の刀は切れ味が凄いらしい。捉えることさえ出来れば銃弾も真っ二つだとか聞くな」

その品質の高さから、多くの剣士にファンがいるのだと克は言った。

「へぇー、私も是非使ってみたいな!」

主に大剣を使うマリアだが、手練れたちがこぞって良いと言うものには興味がある。

「ワギで一度握らせてもらうといい」

そう朔也が言ったあたりで一本道が終わり、首都ワギの入り口の鳥居が現れた。
四人がそれをくぐり、一先ず忍日命に会うべく、朔也が案内しようと先頭で足を踏み出した時。
ぴたりと足を止めた朔也はじっと目前を凝視する。
さわさわと風が吹き抜け、その人を見つめる目がぐっと開かれた。

「お久し振りです、朔也」

懐かしい響きに思わずじわりと涙が浮かぶ。
そして笑顔で叫んだ。

「師匠!!」

タッと駆け出した朔也は四人を出迎えに来た男、夏燕に抱き着く。
犬が飼い主に飛び付いているようなその光景に三人は思わず笑ってしまう。

「こらこら……!全く君は、何年経っても落ち着きがありませんね」

別れた時より随分身長も伸びている。
熱烈なハグに困った表情を浮かべながらも、夏燕はとても嬉しそうであった。

「しっ……ししょー…!会いたかったです!!」

ぐずぐず嬉し泣きする朔也を、夏燕の数歩後ろから見ていた山茶花はため息を吐く。

「客人を待たせるな、さっさと行くぞ」

キッと睨むその視線に朔也は顔を向け、またパッと目を輝かせ今度は山茶花に駆け寄り、抱き締めよう……として顔面を掴まれる。

「さ、わ、る、な!!」

「ぐっ……この塩対応も久し振りだぜ……元気そうだな山茶花」

「あんたも相変わらずだな」

五年経っても変わらない兄弟子に苦笑し、山茶花は手を離す。

「はー…別れた時はちっさかったのにお前………。なんかでかくなったな、色々」

朔也が上から下までまじまじと山茶花を見つめると、即座に鉄拳がお見舞いされる。
そんな弟子たちのじゃれ合いにクスリとし、夏燕は残されていた三人に歩み寄り、お辞儀をした。

「お騒がせして申し訳ありません。僕は夏燕、彼女は弟子の山茶花といいます。皆さんをお待ちしておりました」

「私はマリア。こっちがサイで、こっちは克だ」

「今日から暫くお世話になります!」

克が頭を下げ、これはご丁寧に、と夏燕も会釈をした。

「女王陛下は城でお待ちです。ご案内します」

先導する夏燕に続き、マリア達は歩き始める。
新しい土地で大精霊の試練を受けることへの緊張はあるものの、先にここに来ている四人の顔を思い浮かべると、何だかわくわくして顔がにやけるマリアであった。





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