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思い出はいつまでも夢の中に


辺りは静まり返っていた。
「むにゃ………」
誰かの寝言がやけに大きく聞こえた。
小屋の外、真っ暗な海を見つめる一つの影があった。
「なーんだこんな所にいたの?」
後ろから聞き慣れた声にゆっくり振り返る。
「愛優美………」
「何黄昏てるのよ、寿也?」
二人並んで海を見つめる。
「俺さ、海の結晶から作られたらしいんだ、名前も海部寿也だし」
寿也が一人で喋るのを愛優美は黙って聞いていた。
「また海に還るんだろうなぁ、でももう一度くらい皆と一緒にここに来れたらいいな」
敢えて何も聞かず口も挟まず愛優美は優しく寿也に近付いた。
「俺はその時いるかどうか分かんねーけど、まぁいるだろうと過程して愛優美はどう思って」
寿也の言葉が不意に途切れる。
「愛優美?」
「もう、バカね」
そこで初めて愛優美は思った事を口にした。
「怖いの?男のくせに」
すぐ近くまで行って愛優美が寿也を抱き締めた。
「ばっ、バカ、俺が言いたいのは」
「はいはい、分かりますぅ静かにして下さい」
言われて寿也も言葉を飲み込む。
「皆一緒よ、心菜だって凛だって私だって」
「愛優美………」
それまで気を張って力んでいた体に暖かい温もりを感じた。
「愛優美、俺はホントは」
「分かったから何も言わないで」
さざ波が打ち付ける音がやけに大きく聞こえた。
「また皆でここに戻って来よう、博士が愛したこの海に」
その日の夜はやけに長く感じていた。
「愛優美、愛優美!!」
「大丈夫よ寿也、きっとまた会える」
それから、波が静かになるまで時間は過ぎた。
夜が明ける、その時。
「ふっふっふっふっふ」
ドカンと音がして小屋が吹き飛んだ。
「誰!?」
外にいた愛優美と寿也がビックリして上を見上げた。
「ほう、まだいたか」
何かが真下に向かって放たれる。
「きゃあ!!」
「愛優美、逃げろ!!」
二人手を繋いでその場から離れる。
「何なの、あれ?」
「分からねぇ、でもヤバい感じがする」
岩影に隠れて、様子を見る。
「心菜と凛が………」
「俺が奴を引き付けておくから愛優美は合図と共に走れ!!」
寿也が長剣を手に走り出そうとした時。
「イヤよ!!寿也と離れたくない!!」
後ろ姿が突然消えた。
「寿也ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「走れ!!愛優美!!」
長剣を振り上げた寿也の体がそれだけを告げて破裂した。
「いやああああああああああああああああああああああああ!!」
必死に叫びながら走る愛優美に情け容赦なく光の矢が降り注いだ。
「つまらんな、もう終わりか」

そして、夜は明けた。

後にはただ、波が打ち付ける音だけが聞こえていた。

そこに、四人の姿は無かった。

恋する女は強いんだよね


南風吹く温かな気候の中で水遊びに来ていた。
「きゃあ、冷たい!!」
「うお!!マジで感動するんですけど」
寿也、心菜、凛、愛優美の面々が楽しげにはしゃいでいた。
「お姉ちゃん、それそれそれ!!」
「やったなぁ!!」
陽が差す貴重な時間の中で四人は思い思いに疲れを癒した。
「ああ、面白かった!!」
「久々に我を忘れたわ」
「そんなに楽しかったか?」
「うん、楽しかった!」
静かな波打ち際で流れる音を聞いて余韻に浸っていると。
「お姉ちゃん!」
「ん?どうしたの、心菜」
「あのね、あのね………」
もじもじしながら俯く心菜に愛優美が駆け寄る。
「心菜ぁ、見て見て」
言いかけて声のした方に振り返る。
「なあに、お姉ちゃん」
そこには、小さな貝殻が手のひらにあった。
「キレイ………」
「心菜にあげるよ!!」
「ホント?やったぁ」
貝殻を手に、心菜は本当に嬉しそうに笑った。
「えぇっと………」
心菜がまたもじもじしながら下を向くと横にいた凛が微笑んで肩を叩いた。
「こういう時はね………」
「うん」
「有り難うって言うんだよ」
「そっか、有り難う愛優美お姉ちゃん」
「心菜ぁ!可愛い!マスコットにしたい!」
「どんな表現だよ愛優美」
横で寿也が呆れてため息を吐いた。
「あんたに言われたくないわよバカ寿也ぁ」
「なにぃ!!」
バチバチと睨み合う二人を見て思わず発した言葉にその場はしぃーんとなる。
「お姉ちゃんはお兄ちゃんを好きなの?」
と………
「だっ、誰がこんなバカ寿也なんか」
「さっきから聞いてりゃ人をバカバカ言いやがって!こっちこそ願い下げだね!」
「何よ!」
「何だよ!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
凛が間に割って入る。
対して、キョトンとした心菜には言った意味が分かってない様子だった。
「私はお兄ちゃん好きだよ?」
凛が寿也の腕を取ってにっこり微笑んだ。
「ありがとな、凛」
「うんっ!!」
「私はこんなバカより………」
愛優美が言いかけてそっぽを向いた。
「よおし、凛!もうひとっ走り行くかぁ」
「いやっほぃ!!」
さざ波に向かって走る寿也と凛を横目に、愛優美が真っ赤な顔でぶつぶつ呟いていた。
「何よ、バカ………」

やがて夜の帳が落ち、海の景色も姿を変えていた。
「今日はいっぱい遊べたな」
「うんっ!また来れたら良いな〜」
「来れるよ、きっと」
「そうだね」
「お姉ちゃん、貝殻ペンダントにしたよ」
心菜が恥ずかしそうにもじもじと横に並んだ。
「可愛い〜やっぱり心菜は私の………何よ、寿也」
意気揚々な愛優美に寿也が近付いていった。
「あっち向いてほいっ!」
指の差す方を無意識に向いてしまった後で、何かが頬に軽く触れた。
「と、寿也!?」
知らず知らず赤くなる愛優美がビックリしたように寿也の方を見た。
「記念に取っとけ」
寿也が触れた頬に手を当て、愛優美が小声で呟く。
「バカね………」

すっかり暗くなった辺りを見て、四人は眠りに就く為に歌を歌い始める。
「眠いよ〜」
「さあ寝よう〜」
「おやすみ〜」
「また明日な〜」
騒がしい一時は終わった。
すやすやと夢の中へ。

「ふっふっふ………」
暗がりの中に光る鋭い眼光が、四人を捉えていた。

「まだこんな所に生命体が残っていようとはな」
蒼い空が次第に黒く染まり始めていた。

時は流れて行く………

聞こえない世界の終わり


じじじ、と蝋燭の炎が風に揺れて音を立てて流れていった。
ぼうっと浮かぶ背景は黒一色。
「兄者」
ニタリと嗤いながら現れた影を見つめる。
「動き出したぞ、ついに」
「いよいよ我等の存在を世に知らしめる時が来た」
蝋燭が再び風に揺れる。
「くははははははははははははははははは!!」
不気味な嗤いは静まり返った洞窟の中に響いて消えた。
蝋燭はやがて役目を終えたようにふっと光を遮った。

「あれが究極の合成獣」
渦を巻くように流れていく黒い雲が稲光を発しながらずんずん近付いて来る。
「早く何とかしないと」
そして、影はその場を離れた。

「いててっ!!」
「もう!最初から分かってるなら言ってよね!」
「良く言うだろ?敵を欺くにはまず味方からって」
言い訳を繰り返す寿也に愛優美はポカポカと背中を叩く。
「本気で心配したんだから!!」
「分かった分かったよ」
「お姉ちゃん………」
不意に割り込む声に辺りがしーんとなる。
「どうしたの、心菜?」
「聞こえる………」
その言葉に耳を傾ける。
すると………
「何も聞こえないけど」
「いや、聞こえる」
「何が聞こえるのよ?」
愛優美が怪訝な表情で寿也を見た。
と………
ぐぅうううううううう〜
「もーっ!!寿也のバカバカバカバカバカバカ!」
「いてっ、いてぇよ愛優美」
二人はその時見えていなかった。
心菜の瞳が金色に輝くのを。
それは、前兆。

遥か遠い西の世界の終わりが雄叫びと共に響き渡る。

「聞こえる………」

その時、全ては始まろうとしていた。

一筋の光に希望を求めて


それは一瞬の事だった

「寿也!!寿也!!返事して、お願いよ寿也」
愛優美が側に駆け寄り涙ながらに体を揺り動かす。
「ふっ、生命体の分際で一丁前に涙とはな」
コツコツと足音を立て、その手が愛優美に触ろうとした、その時。
「愛優美に触るんじゃねーよ!!」
別の場所からその声は聞こえた。
「寿也!?無事なの!?」
「あたぼーよ!!ちょっとだけ待ってろよ」
暫くの間、しぃーんと辺りが緊迫していく。
「寿也?何処に居るの?」
小声で愛優美の声が僅かに震える。
「そこかぁ!!」
「!!」
いきなり叫び声が響き愛優美はビクッとなった。
やがて、キィンという金属音がしてドサリと何かが倒れた。
「………と、寿也?」
愛優美が恐る恐る声を出す。
すると、夜が明け太陽が小屋の中を照らした。
「よっ、愛優美!!」
そこには、傷一つない寿也が立っていた。
「寿也!このバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!」
「おい、早くどけ」
「!!」
折角の青春ラブコメディ?が新たな声に遮られた。
「だ、誰!?」
恥ずかしくなって思わず寿也から離れる愛優美だった。
「全く、人使いが荒い奴だな」
「ごめんな、夜神さん」
むっくり起き上がった人物は真っ赤な瞳を光らせて立ち上がった。
「きゃあああああ!!」
そう、それは黒い物体と共にいた、悪魔。
「喚くな、耳が痛い」
「だってだってだってだってだってだって!!」
「大丈夫だって!この人は味方なんだ」
寿也の横には巨大な藁人形が置かれていた。
「えっ、えっ、えっ、えっ、味方??」
愛優美の頭の中ははてなでいっぱいになった。
「味方………と言うか俺は組織側の人間、だった」
「夜神さんは組織を裏切ったんだよ、信用するしないは個々の自由で」
寿也がそう言うと、長剣を背中にかるいなおして手を振った。
「有り難うございました、夜神さん」
「気を付けてな、またな」
それからの寿也が愛優美に文句攻めにあったのは言うまでもない。

陽が差す時間は短い。
あっという間に夜の帳が落ちる頃。

ガォォォォォォォォォ………

遥か西の世界では、雄叫びと共に人間が次々に殺されていた。

それは、これから始まる物語の始まりでしかなかった。

孤独な楽園の中の秘密とは


激しく打ち付ける雨が不安を駆り立てていた。
「怖いよ怖いよ、お姉ちゃん怖いよ」
小さな瞳がくるくると左右に振られる。
「大丈夫、大丈夫」
その優しい声に泣いていた気持ちが吹き飛ぶ。
「うんっ!」
大丈夫、と言い聞かせて眠りに就く。
「そっちはどうだ?」
「異常なし」
隠れる影。
立ち去る足音。
それは、ぱちゃぱちゃと音を立てて二つに分かれた。
「何処に逃げても無駄な事だ」
黒い物体は後から後から追いかけてくる。
「見ぃつけた………」
ニタァとそれは、嗤った。

「何だって?」
小さな小さな小屋の中。
聞き返す、声。
「いないの、心菜が!」
「奴らに連れていかれたんじゃ」
「とにかく、探すわ」
「分かったこっちは任せろ」
そして、その足は心当たりに向かっていった。

「さぁてどおしよおかな?」
「きゃーっ!!!!!」
迫る顔に思わず悲鳴が上がる。
「助けて………」
祈る言葉にソレは無情にも嗤っていくばかりだった。

「くそぅっ!」
「そっちもダメだったの?」
「ああ、奴らに違いない」
「何とかしないと」
すると小屋の上から奇妙な音が聞こえた。
「何?今の」
「こそこそ隠れてないで出て来やがれ!」
すると………
ずずず、ずずず、ずずず。
小屋の隙間から顔を出したのは。
「隠れてるのは貴様らの方だろう?」
不気味な黒い物体が姿を現す。
「やっぱりテメーらか!」
寿也が長剣で顔目掛けて思いっきり突き立てた。
「ぐふふふふふふふふふふ」
嗤い声は可笑しくてたまらないといった感じで尚も嗤う。
「心菜と凛をどうした!?」
寿也の問いに黒い物体は嗤うのみ。
「こんの!すげームカつく奴め!」
「逃げる貴様らが悪いのだ」
やがて、小屋の中が闇に包まれた。
「返して欲しくば言う通りに」
「誰が貴方達なんかに!」
後ろから声が聞こえて真っ白な粉が吹きかけられる。
「ぐあああああああああ」
黒い物体が悶絶して光が再び降り注いだ。
「心菜!凛!」
「愛優美!」
二つの生命体が現れると同時に駆け寄る。

だが。

「ぐはっ!!」
短い声を発して寿也が膝をついた。
「寿也!!」
「永遠に眠れ、非力なる生命体よ」
寿也の長剣が寿也自身に突き刺さる。

「寿也ぁぁぁぁぁ」

目の前は黒一色に染まった。
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