常にスナップ常連のK太の存在は勿論知っていたが実際目の当たりにすると凄すぎる。
色んな意味で目立っていた。
一緒に遊ぼうと誘われ戸惑っていたら後ろからK太の友達が来た。
…
…
…神様、これって…
K太の友達は1717だった。
田舎の本屋の一冊の雑誌で一目惚れしたあたしの王子様。
1717が今あたしの目の前にいる。
…動いてる…
…話してる…
感激と動揺でもうわけわかんない!!
チャンスは絶対逃したくない。あたしは誘いをすぐに受け入れ、K太と1717、マイにあたしの4人でカラオケに行く事にした。
1717は外見だけじゃなくカラオケも完璧だった。punkバンドのヴォーカルをやっているそうだ。
あたしの大好きなhideのラッシーを歌ってくれた1717は今まで聴いたどの曲より素敵だった
ヴィヴィアンと古着を誰よりも上手に着こなし、誰よりも歌の上手い1717は憧れを通り越して神に近い存在で、付き合いたいなぁとか全く思えなかった。
彼のような人はきっとあたしを選ばない。
雑誌に載ることで狭い世界でチヤホヤされても中学まではずっとブスってからかわれてきたあたし。
身の丈位わきまえてる。
一緒にこうして遊べるだけで幸せ、それ以上は望まない。
いつものように日曜日、原宿GAP前をうろうろとしていた。
表参道のローソンに買い物しに行こうとしたとき
「すみませーん。私KERAという雑誌のカメラマンなんですけど!!
ストリートスナップのページの写真撮らせていただいてもよろしいですか??」
コンプレックスの塊だったあたしがまさか雑誌の撮影に声かけられるなんて思ってもいなかったので凄く驚いたし凄く嬉しかった。
緊張しながら撮った写真は次の月のヘア特集のページに載った。
雑誌の編集の方から電話がかかってきて髪飾りはどこで買ったのか、美容院はどこに通っているのかなどを聞かれてまるで自分がモデルになったような不思議な感覚だった。
その月から雑誌の撮影は少しずつ増え、KERAやフルーツ、カスケードのファンクラブ会報など10数回出ることができた。
いつ撮ったのか忘れたが女性自身(週刊誌)に浜崎あゆみの隣に掲載されたときは笑ってしまった。
あゆの隣なんてあんまりじゃないか。まるで月とすっぽんだよ。
ダメージデニムの特集だったはず。
雑誌に載ることにより学校や原宿で声かけられることが増えてきたとき、
1人の男に原宿で声を掛けられた。
「ねえ、サクラちゃんでしょ?雑誌で見たよ。今日友達と来てるんだけど一緒に遊ばない??」
・・銀色の髪に赤いカラコン。ヴァンパイアのような怪しい色彩の男は20471120の洋服を上手に着こなしていた。
雑誌の中の1717はまさにあたしの理想の男だった。
垂れ目なのに虫の脚のように細くつり上がった眉。通った鼻筋に白く細い肌。
こんなセクシーな男は他にいないと思う。
まるでアイドルに恋するオタクのようにあたしは1717に密かに思いを寄せていた。
ある日学校帰りにパルコに寄る事にした。
勿論パンク仲間のマイも一緒。
いつも通りスーパーラヴァーズやピースナウを冷やかして外に出た。
マイとだらだら会話しながら歩いていると私達の脇を風変わりな服装をした男が通り過ぎた。
青いチューブのついたワイドパンツにメタリックに反射するTシャツ。
足元はバッファローの厚底ブーツ。
所謂サイバー系と呼ばれる服装。
フェトウスやサイバードッグが主なブランドで、その通り過ぎた男の服にもフェトウスのロゴマークの胎児が付いていた。
田舎町には珍しい仲間だったので信号待ちの時に隣にならんで顔を見た。
…自分の目を疑った…
1717だ…
なんで…?あたしの王子様があたしの隣に居るの?
絶対逢えるはずのない雑誌の中の王子様だったのに…
隣に居たマイもすぐに1717だと気づき目を丸くしていた。
こんな田舎町のパルコ近辺にいるなんて同じ県に住んでるに違いない。
信号が青に変わるとすぐに1717は街中へと消えていったがあたしの憧れはますます強まっていった。
ある日学校帰りにマイと2人で本屋でfruitを読んでいた。
fruitってのは原宿系ストリートスナップ紙。
今はすっかり代官山系に落ち着いてしまったけど昔はコテコテの個性派紙だった。
そこに載っていた1人の男の子を見たとき衝撃が走った。
「ねぇ
マイ
この人やばい格好いい
人生でこんなイイ男見たことない
見てみて
」
「どれどれ
…って格好いいー
ヤバイヤバイ
人生見た中で1番のヒット
名前は
1717かぁ
」
2人で格好いい〜
ときゃあきゃあ叫んだ。
古着とヴィヴィアンを組み合わせたロンドンパンクな服装に虫の脚のような眉毛、通った鼻筋に垂れ目なのに冷たい目線…
当時17歳であたしの1つ年上。1717と名乗る男は確かに今まで見た男の子や芸能人を含め誰よりも好みだった。
雑誌の中の王子様。
彼はあたしの憧れで、雑誌を部屋に飾って毎日眺めた。
今でもその雑誌は大事にとってある。
まさか数ヶ月後、その1717の車にあたしが乗ることになるなんて…
マーチンはとにかく人前でキスしたがる。
しかも軽くじゃなくてディープキス。
エレベーターの中、繁華街、駅の改札やホーム。飢えた狼そのもののマーチンは本当どこでもキスしてくる。
なんかもう興味なかった。
ご飯の食べ方汚いのが1番嫌い。
あたしは真剣にご飯を食べない人が嫌いだ。
ママが食事のマナーにはやたらとうるさくてひっぱたかれたりしたので人並みのマナーはあると思う。
肘をついて食事をするのはだらしないし音をたてて食べられると殺意がわく。
マーチンは飲み物を飲むとジュルジュル音をたてるしファミレスで肉の残ったソースの中にライスをぶっこむような男だ。
一緒に居て本当恥ずかしい。
山梨の信玄餅工場と郵便局の配達を掛け持ちでバイトするマーチンはなぜか常にお金なかった。卓矢エンジェルにつぎ込んでるからか。
あたしが誕生日に指輪が欲しい
とおねだりしたら物凄くごねられたがラフォーレに連れてってくれた。
黙々と地下に降りる彼…なんか嫌な予感。
連れてこられたのはプトマヨという安いロリータショップ。
大体ロリ服ってのは3万以上してやたらと高い。ベイビーとかモワティエとかの正統派ブランドは。
プトマヨってのはロリータ初心者の中学生とか向けの五千円前後から買える店。
そこのアクセサリー買ってあげる
と言われた。あたしは大好きな蜂のデザインの指輪を選んだ。
4900円。
何か腑に落ちなかった。うちらはエンジェラー。一着6万も10万もする服で全身コーディネートしてるわけ。
別に安いから嫌だってわけじゃない。生活に困る人や学生が一生懸命貯めて買ってくれた4900円の指輪なら本当に嬉しい。
でもマーチンは違う。
お金なくてもエンジェルは買えてる訳だし、あたしの為に努力をしてる訳でもない。
あたしはその人のできるかぎりの愛情が欲しい。少しでも妥協なんてされたくない。
しかも極めつけに実はまだ前の彼女と別れてない…でもすぐ別れるから
と言われた。
初めての彼氏が二股かよ
一気に冷めた。こんな男いらない。
3回ほどデートしただけであたしはマーチンにメールで別れを告げた。
こうして初めての彼氏と終わった次の日、あたしには新しい男が居た。
同時に書くとゴチャゴチャになりそうなので1人ずつ書くことにしたが、マーチンと出逢ったあたりにあたしはもう二人、出会っていたんだ。
次からはその2人について書こうと思う。