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【魂の灯火に、君の面影】(ワンピース捏造。エース+ジンベエ、監獄にて)


周りの囚人達がガシャガシャと牢屋の柵を揺する音で目が覚めた。
目が覚めた、と言う割には中々覚醒しない頭を左右に振る。

そうして、なんとか未だ重たい瞼をこじ開けると、最早見慣れてしまった光景に息を吐く。

狭い牢屋の中には私の他に2人。
1人はかつてアラバスタ王国を手中に収めようと国民虐殺を図った、バロックワークス社長、そして元・王下七武海の一角を担った男…サー・クロコダイルである。

そしてもう1人は、かの有名な"白ひげ海賊団"の、若くして2番隊隊長を務めるポートガス・D・エース、通称・火拳のエースである。

もう何十時間も両腕を張り付けの様に拘束され、受け続けた拷問に身体はボロボロで、指一本動かす事も無い。

それでも彼、エースは何に臆するでもなくただ、きつく瞳を閉じ、沈黙を守っていた。


「なぁ、ジンベエよ・・・」

そのエースが、ふ、と目を開けて此方を目線で伺ってくる。
その意図は解らなかったが、私は短く返事をした。


「前に、話したかもしれねぇけどよ…」
「・・・?」
「俺にゃあ、手の掛かる弟がいて、よ」

呼吸気管がやられているのだろう、話す言葉の途中途中にヒュウヒュウと苦しそうな息の乱れがおきている。

「そいつはよ・・・、1人じゃ朝起きれねぇし、メシも、作れねぇし、」
言葉を区切ったところで、ゲホゲホと身体が大きく反る程激しく咳き込んだ。


エースの命が、消えようとしているのが分かった。


「・・・エースさん、」
「・・・はぁ、ほ、本当に俺が居なくちゃ何にも出来ない奴でよ…!!」

その時、初めてエースが泣いているのを知った。
故郷を思い出しているのだろうか、それとも、その"手の掛かる弟"を思い出して泣いているのだろうか。
その真意は計れないが、「私も、会ってみたいですね」とだけ伝えた。

「あぁ、きっと…気に入ると思うぜ…」

そう言って目を閉じたエースは力なく項垂れた。

彼の、目の淵に溜まっていた僅かな涙がポタリ、と落ちて頑丈な造りの牢屋の床に濃い染みを作っていく。


その染みの様に、エースの心に広がっては深く染み付いているのが、愛する"弟"と言うなら。


(まだ、想いが死んじゃいないなら)


逢わせてやりたいと、そう思う。





囚人達の遠吠えをBGMに、まだ見ぬ"弟"に想いを馳せ、目を閉じた。



―魂の灯火に、君の面影を見た

(君にそっくりな笑顔だった)

【いつもの僕等と曖昧な日常】


「事件です」



いつもと然程変わらない大学の構内で、いつもに増して機嫌の悪い友人がドン、と安っぽい造りの机を壊さんばかりに叩いて言ったのが、これだ。



「何だよ、また女にフラれたか?ラム?」
「・・・!テメェ、何で知ってんだよ!!」
「当たりかよぃ」
「俺はな!マナを愛してたんだ!それが、アイツ俺のことを何て言ったと思う!?」
「暑苦しい」
「そうだ!って、だから何で知ってんだ!!」
「毎回それでフラれてんのに気付けよ」
「畜生!おい、女紹介しろよクルト!」


人の机の上に座って、しかも俺の菓子を横取り、こんな奴に紹介出来る女なんかいねぇよ。
・・・と、内心では思うが、俺はコイツの優しさと割と脆い心を知ってる。
平静を装ってはいるが、別れてから泣いたのだろう。
目が赤く腫れぼったくなっていた。



「・・・まー、何とかセッティングしてみるわ」
「おお!さすがクルトだな!神様仏様クルト様!」
「うるせーやい。・・・今度はうまくやれよ」
「・・・おうよ!」
「そんで、そろそろ『暑苦しい』以外の別れ文句も聞かせてくれよ」
「うるせー!!」


その後、机から飛び下りたラムに食べ掛けのポテチを投げられた。
そんな理不尽さに「もうコイツの面倒みるのやめよう」と思う。

しかし、そう思うのも既に何回目か分からない。

結局、俺等は常に2人でいて、日々が流れてゆく。
そんな曖昧な、それでいて不思議と飽きのこない日常を、俺等は愛しているのだ。



―いつもの僕等と。

(曖昧な毎日!)

【紅い鬼は霞と散った】(真田主従・猿飛視点)


最初の話から、危険過ぎるのは解っていた。
だからこそ俺は反対したのだから。
それでも、いつもの様に「大丈夫だ!某は負けはせぬ!」と豪快に笑われては、部下に過ぎない俺様は止める術を持たなかった。


最初から、解っていた。
これは明らかに負け戦だと。
最初から、解っていた。
自分の主が勝てないことも。
最初から、解っていた。
いつか別れがくることも。


―最初から、解っていた筈だった。


『っ、・・・下がれ佐助ぇぇぇえッ!!』
『旦那!無理だ、行くなァァァッ!!!』
紅い鬼の散る姿。
滴る、真っ赤な血、血、血。
『っ旦那ぁぁあ!!』
『さ、すけ……行け、…………生きろ…っ!!』
閉ざされる、琥珀色の瞳。
急速に冷えていく身体。


―最初から、解っていた筈だった。
自分に、己の主を護る程の力が無いということを。

何一つ護れなかった。
相手が悪すぎた?
そんなのはただの言い訳に過ぎない。

旦那、待ってて。
今、そっちに逝くから。



紅い鬼が、霞と散った。
(俺様には、アンタが居ないと生きる意味が無いんだよ)


【俺から君へ、最後の詞】

ああ、多分こいつは泣かねぇわ。
と不意に思った。


―もしも、その時は。



「で、明日から補習なんすよ」

俺の2こ下、後輩の高橋は部活をサボる為に毎日俺の病室に足を運ぶ。
そしてどうやら昨日の期末試験で赤点を取ったらしく、明日から補習で、暫くは此処に来れない。・・・とのこと(別に来てくれと頼んだ覚えは無い)。

「そうか、補習頑張れよ」
「はい…」
「どうした?」
「いや、…なんでも無いっす」
「補習って1週間位だろ?すぐ終わるよ」
「・・・はい」
「それにその間はお前、部活行かなくて済むじゃん」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・大丈夫、そんな簡単に死にゃあしねぇよ」

情けない事に、俺は小さい頃から身体が弱く、先々月の定期検診の時に脳腫瘍が見付かってしまった。
その腫瘍が悪性だったことと、腫瘍の場所が悪かった事もあり、取り除くことは不可能だった。
それからは日を追うごとに容態が悪くなり、先週まで緊急治療室から出られなかったのだか、一昨日から大分調子が良くなり久し振りに高橋と話す事が出来た。

家も近所で付き合いもかなり長い高橋は小さい頃から一緒にいた。
そのせいもあってか高橋は俺にべったりで高校も同じところを受験し、見事合格した。
おめでとうと、言った時の高橋の子供らしい満面の笑みがもう大分前の事のように思える。




「翔さん?」
「うん?」
大分考え込んでいたようで高橋が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

「大丈夫すか」
「あぁ。…高橋」
「はい?」
「例えば、俺が死んだとして」
「・・・はぁっ!?何言ってんすか!!翔さんが死ぬわけ」
「だーかーら、例えば!例えば、俺が死んだとして」
「・・・はい」
「泣けよ?」
「そこは普通、泣くなって言うんじゃ…」
「いいんだ、泣けよ、泣け。それから思いっきり笑え」
「それは、無理っす…」
「笑えって。『等々死んじまったよこの口煩い若年寄!』って言ってさ」
「・・・無理っすよ」
「・・・なぁ、今泣くなよ」
「・・・っ翔さぁん」
「大丈夫、そんな簡単に死にゃあしねぇさ」
「・・・はい、」
「だから、補習頑張れ!早く終わらせて来いよ」
「わかりました、俺、2日で終わらせてみせますから!」
「・・・おう!」

じゃあ、今日は帰ります、と高橋は何度か俺の方を振り返っては俺にせっつかれて出て行った。

急速に冷えていくような感覚が俺を襲った。
今朝方看護師が持ってきてくれた二枚合わせの羽毛布団を頭まで被り、横になって考える。

あいつは多分意地でも泣かねぇだろう。
でもな、高橋。
頼むから。


―もしも、その時は。

大声で泣いて、そして笑ってくれ。




END
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