久しぶりのヤマト小話ですよ、皆様!(●°∀°●)
今回は1月以来の本編創作に入る前に、ずっとお待たせしていたこともあり、小話を仕上げさせていただきました!
実は次回の本編は43話なのですが、このお話も43作品目の小話なのですよ!すごい偶然に自分でもビックリしています。
あと、もっと驚きなのが、前回ヤマト小話を更新したのがちょうど同日の6月15日の『Rainy Date』以来とのことです!ピッタリ一年後に更新だなんて、まさに365分の1の運命ですよ!
この時期はおそらく小話を書きたくなる季節なのですね♪嬉しいですv
時系列はシリーズ終了後です。
古代の菜園をこっそりのぞきに行ってらっしゃいませ!
では、追記へどうぞ!
古代菜園
ちょき。
陽射しをきらりと弾くハサミが、伸びすぎた枝先を切り落とした。青々と生い茂る葉に引っ掛かった枝を、白い手が掴んで取り除く。青菜がキラキラと光を弾いた。ちょき。また切り落として、手に取った。合掌式に組み立てられた支柱の一本が傾いていたので、土から引き抜いてちゃんと刺し直す。枯れた葉をぷちっと千切っていき、土に密集して生える緑から育ちの遅いものをまぶいていく。根元から手際よく引き抜いて、白い手に土がついた。
出入り口に降り注ぐ緑陰に埋もれながら、艶やかな黒の軍靴(ぐんか)はしばし立ち止まっていた。働き続ける白い手先を見詰め、菫の眼差しがまぶしげに細められる。サラ……。長い黒の外套が涼しげに葉をかすめた。軍靴は歩み出し、手を土だらけにしながら作業に没頭する背中に近づいた。
ピクリと栗毛が揺れた。小さな花を両手で包み込むように、背後からそっと細い腰に抱き着いてきた腕。
「仕事は?」
古代が微笑むと、腕の持ち主は金糸を細い肩にうずめて「抜け出してきた」と白状する。ちゃんと言ってきた? 今頃、彼を探して慌てふためいている人々のことを案じて尋ねると、フフッと後ろから笑い声。
「私の行く先など、言わずともわかる」
君を補給しに来たよ。
デスラーは茶目っ気にそう告げて、可愛い栗毛にキスをした。
ガラス張りの植物園にサレザーの陽射しが燦々(さんさん)と降り注いでいた。熱帯植物の枝葉が作った日だまりの中、ひとつの小道が園の奥まで続いていた。その道を行った先に、ガラスで仕切られた小さな温室があった。
自動扉を抜けて中へ入ると、豊かな土と植物の青い香りが鼻腔をいっぱいにする。敷石に囲まれたこじんまりとした長方形の区画に柔らかな土が敷き詰められ、ガミラスでは見られない様々な野菜が元気いっぱいに青々と育っていた。盛り土の畝(うね)ごとに立てられたプレートには、レタス、玉ねぎ、ニンジン、キュウリ、ナス、トマト、ピーマン、ネギなどの品種が日本語とガミラス語の両方で書かれており、種類ごとに異なる葉が苗床を埋め尽くさんばかりに陽射しを浴びている。
立派な苗に育ったナスやキュウリやピーマン、トマトなどの野菜は紫や黄色の花を咲かせ、しっかりと実をつかせていた。大きくなった実が生命の力を煌かせていた。レタスなどの葉もの野菜は、大きな青菜を陽射しに透き通らせ、様々なグリーンを輝かせている。肥えた土からニンジンや玉ねぎなどの根菜がちょっぴり顔をのぞかせて、引っこ抜かれる日を待っていた。それぞれの品種の苗に近寄ると、ナスはナスの、キュウリはキュウリの、それぞれの野菜の源になった濃厚な青臭さを嗅ぐことができた。豊穣の香りだ。
「よく育てたね」
陽射しを浴びようと先を競って大きく葉を広げるカボチャの苗に触りながら、デスラーは感心して褒めた。
「俺は何もしてないよ」
しゃがみこんだデスラーのマントが土で汚れないように、古代が後ろで長い裾(すそ)を持ちながら朗らかな苦笑を零す。仕事が忙しく、園芸用アンドロイドにほぼすべての管理を任せっきりにしているので、自分は様子を見に来たり、たまにこうして手入れをしてやることしかできない。
「地球じゃなくても、ちゃんと育ってくれるこいつらがすごいんだよ。俺が何もしなくても、スクスク大きくなってくれてる」
育ち盛りの野菜たちを、古代は見渡して嬉しそうに笑った。
古代が地球原産の野菜の栽培を始めたのは今年に入ってからだ。
地球の野菜を使った料理を作る際、地球政府から送られてきたカタログで注文して取り寄せてもらうのが、これまでの習慣だった。
しかし、地球からガミラスまでの距離は十六万八千光年。ワープゲートで最短ルートを通っても、ガミラスに商品が届くのは数週間先であり、その到着日に合わせてあらかじめ献立の計画を立てなければならなかった。また、料理中にすぐに欲しい野菜があって買い出しに行きたくても、地球の食材を揃えているスーパーなんてガミラスにはまだ存在しない。毎度のこと野菜調達に不便していた古代はついに一念発起し、自分がよく使う最低限の野菜を自分で育てて調達することに決めたのだった。
古代にとって初めての家庭菜園。それも異星での栽培は苦労の連続だった。
ガミラスの堆肥と野菜の相性が合わずに、取り寄せた苗を全部枯らしてしまったのが最初の失敗。やっと蒔いた種が発芽して喜んだのも束の間、狂暴なガミロンカミツキ芋虫がどこからか入り込んで大量発生し、茎も残さずに全ての野菜の新芽を食べ尽くしてしまったのが次の失敗。同時に、古代もデスラーも芋虫にガブリと噛み付かれて、指先に立派な歯型を残されたのが二次災害。総統夫妻を害した芋虫は、大の虫嫌いであるギムレーの怒りを買い、隊員たちを総動員させての駆除作戦が展開。虫が沸くから菜園をやめろと圧力をかけてきたギムレーと、「円満夫婦に水を差すな!!」と怒ったタランが口論になったのが四ヶ月前。
次から次にくる問題に四苦八苦しながら、なんとか数々の苦難を乗り越え、ついに古代菜園は収穫時期を迎えることができたのだ。
真っ赤に実った大きなトマトを白い手が二つもいだ。無農薬のオーガニックトマト。古代はエプロンで綺麗にこしこしと拭う。デスラーは苗木に鈴なりに実ったピーマンに目を留めつつ、初めての収穫を喜ぶ古代に頬を緩めていた。それから慎ましい面積しかない菜園を見渡す。
「……こんな狭い場所でせずとも、人を雇って農場を作ることもできるよ。そうすれば、豊富な種類のテロンの作物を育てることができる」
この菜園を始めた時から繰り返してきた提案をデスラーはまた口にする。古代はクスリと笑った。
「俺とおまえ、二人で食べられる分ができればいいんだ」
パシッ。
放り投げられたトマトを、デスラーは片手で受け留めた。
古代は初めて自分の手で育て上げたトマトに、豪快にかぶりついた。トマトの果汁が口から滴って腕でぬぐう。美味しそうに頬張る古代を見詰めてから、デスラーはトマトに目を落とす。
巨大なルビーのような真っ赤な実。たくさんの養分を蓄えて肥えた実はぷりっと張りがあり、サレザーの陽射しをまぶしく照り返している。古代が育てた生命の恵み。
デスラーも口許にトマトを運んで歯を立てた。皓歯(こうし)が艶やかに燃える表皮を破り、中に濃縮されていた果汁がすぐに滴った。シャリシャリとした果肉は甘やかな酸味に溢れていて、とてもみずみずしい。口に残る爽やかな食感がたまらずに、本能的に身体が求めて、もう一口と歯を立てる。この陽射しが強まる季節にピッタリの地球の野菜だった。
今まで食べてきた野菜の中で一番美味しいよ。
デスラーが正直に感想を言うと、古代は照れ臭そうにはにかんでニッコリと大きく笑った。
「ほら、あれ」
温室に備えたベンチで一緒にトマトにかぶりつきながら、古代が指をさした。
ところどころに黄色い花を咲かせたツタが、地を這いながら葉をしげらせている。カボチャにも似ているが、葉の形が異なった。うっすらとシマ模様のある小さな丸い実が、ツタと葉の合間から可愛く顔をのぞかせていた。
「スイカ。もっと暑くなったら一緒に食べようと思って」
「ほう……」
スイカは地球では夏に食べる果物なんだ。見た目は黒いシマ模様のある緑だけど、割ってみると中は真っ赤。冷やして食べると、とても甘くて美味しい。
古代はかい摘まんで楽しそうに説明しながら、ショリと音を立ててトマトをかじった。生き生きと輝いている古代の瞳の美しさに見惚れながら、デスラーも甘酸っぱい実を上品に頬張る。
「君が育てた野菜の手料理か。食べるのが待ちきれないね」
「ふふ、ありがとう。早速、今日の夕飯で食べてみようか。デスラーにいろんな地球の野菜食べてほしいから、もっと育てていけたらいいな」
トマトを食べ切って、果汁で両手がベトベトになっていた。
手を洗おうと古代が誘うと、デスラーはクスリと意味ありげに笑った。
「私も君と、もっと大きく育てていきたいな……」
デスラーが菜園を手伝う意気込みを見せてくれたことに古代は喜んで微笑んだ。
「ありがとう。デスラーがそう言ってくれると頼もしいよ。これからも二人でたくさん野菜育てていこ―――んっ」
突然、キスされた。
前触れもなく柔らかな熱を重ねられ、古代の思考はビックリして止まった。口に残る酸味に甘みが増して、相手の口唇からも同じ味を感じ取る。ちゅっ……と離れた。
「――愛情を」
デスラーが言葉の続きを色っぽく囁いた。
古代の口端に残る果汁をペロリと舐め取る。
「フフッ、熟れた」
たちまち真っ赤に実った古代の顔に、クスクスとデスラーはおかしそうに笑いを零した。ちゅっと紅潮した頬に口づける。
「熟した実は食べてしまわないとね」
「ちょ、あっ……!」
デスラーは果汁塗れになった古代の手を取って、指先を口に含んだ。甘酸っぱい愛しい指を順繰りに舌を絡めて味わって、白い果肉をかりっと甘噛みした。
「ま、待って! よ、汚れてるからっ!」
古代の手は野菜の手入れで爪の中に植物の色素が入っていたり、土いじりをしていたから清潔とは言えず、たまらずに声を上げる。が、潔癖症であるはずのデスラーは全く気にせずに古代の手の平に舌を這わせて口づける。夫との美味しく幸せな食卓のために頑張ってくれている妻の手を、汚いなどとは思わない。それどころか愛おしさが胸に募って膨らむ一方だ。私の古代は本当に可愛い人だ。
大人の色香を漂わせながら、デスラーは「古代……」と呼んだ。
「今夜の夕食の献立は?」
甘く尋ねられた古代は、赤くなった顔をうつむかせた。恥ずかしさに戸惑いを覚えて目をさ迷わせながら、ごにょごにょと言葉をどもらせる。
「……ぴ、ピーマンとトマトとナスが、ちょうどいい頃だから……、な、夏野菜カレーとかかな。……ピーマンの肉詰めやトマトのスープ、ナスの肉味噌炒めなんかもいいかも……」
美味しそうだね。
デスラーは古代の爪先にキスを落として囁いた。古代は恥ずかしげに仕方なさそうに笑って、自分を補給している夫を許した。
「収穫、手伝ってくれる?」
「もちろん、喜んで」
デスラーが古代を見詰めて優しく微笑んだ。
再び重ねられた口唇。
そっと目を閉じると、温室に篭った濃い青菜と土の香りと一緒に、愛しい人の香りがした。
fin.
2017-6-15 22:09