※BL注意報ーBL注意報ー(゜Σ゜*)
タダキ嬢にリクエストされていた文が書き終わったのでのせてみます。
リクエスト内容は
・包容力攻め
・クーデレ受け
・ほのぼの
・ファンタジー
・最後は「おやすみ」
・この液体をスプーン一杯
です。
しかしぶっちゃけほとんど満たしていないという……。
これでも精一杯努力はしたんです。
私の愛を受け取れタダキ!
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桂井郁人の仕事部屋は、ひどく雑然としている。
うず高く積まれた専門書や、床に散乱した書類。
屑籠の中に入っているものは分別すらされず、紙屑と調理パンの袋とペットボトルとが同居していた。
そろそろ小蝿やゴキブリ、あるいは鼠の類も湧いてきそうな状態だ。
掃除好きが見れば発狂ものの惨状だが、生憎とこの部屋の主は気にしていないので本人の立場から言えば問題はないようだ。
しかし、これが彼の家全体の状況なのかと言われれば、そうではない。
あくまでこれは仕事部屋に限ってのことである。
それも、彼の仕事の期限が差し迫ったときにのみ生じる、ごく限られた期間の現象だ。
今この部屋が混沌としているのも、彼が追い詰められた状況に置かれているからだった。
郁人の仕事は小説家だ。主にファンタジー系の小説を書き、比較的若い世代に支持されている。
元は趣味で始めたものだったが、たまたま投稿した雑誌で入賞を果たして以来、その雑誌で毎月連載させてもらっていた。
今では本も出版し、小説家としてそれなりに稼いでいる。
その締め切りが、間近に迫っていた。
今のペースならば確実に間に合う。しかし、彼は締め切り二日前には必ず原稿を終わらせるという、他人にとってはよくわからない自分ルールを作っていた。
故に、彼にとってこの状況はぎりぎりなのだ。
集中力を持続させるよう防音となっている仕事部屋には、彼がキーボードを叩くタイピング音しかしない。
煌々と照る蛍光灯の明かりの下、郁人は画面を凝視し、自分が紡ぐ物語の続きを必死に手繰り寄せていた。
防音の部屋はエアコンによって空調を完備されているため、仕事部屋にいる郁人と外界とは完全に遮断されていた。
彼にとっては外ではしゃぐ子供も道路にできた陽炎も走り去る車も、すべて無に等しい。
この区切られた世界の中で、郁人のみが唯一生きている存在だった。
「郁人、開けるぞ。」
突如として、郁人しかいなかった世界にもう一人の生きている存在が入り込んだ。
ノックもなしにいきなりドアを開けた相沢京介は、主の意向も聞かずずかずかと部屋の中央まで来た。
そして、壁際の机に置いてあるパソコンに向かって一心にタイプする郁人に向かって話しかけた。
「飯、作ってきたけど。」
「ありがと。後で。」
お互いに、語尾に「食べる」が入る。
何とも素っ気ないやり取りだが、これが彼らの常だ。
京介は銀のトレーに乗せられた食事を、部屋の隅に放置されていた卓袱台の上に綺麗に配膳した。
もともと卓袱台の上に置かれていた本の山は床に移動させた。
後で郁人が困らぬよう、順番を崩さぬままでだ。
「郁人、今何時?」
全て配膳し終えた京介が、未だこちらに背を向けパソコンと睨めっこをしている郁人に尋ねる。
「今……七時。」
壁に掛けられたシンプルなデザインの丸い時計を見た郁人が答えた。
そしてすぐに、その視線は目の前の機械へと移される。
「だな。最後に飯食った時間は?」
「六時。」
今度は即答。
「何時間経った。」
かたかたと空気を振動させていたキーボードの動きがにわかに止まる。
郁人はしばらく考えた後、ようやく京介へと振り返った。
「……京介、俺飯まだいらない。さっき食べた。」
その若さでもう惚けたのかと哀れなものを見る目を向ける郁人に、京介は頭を抱えた。
「どうしてそういう思考になんだよ……。」
当の郁人は、恋人が惚けたかもしれないという疑惑を放って、また小説の続きにとりかかってしまった。切り替えが早いことこの上ない。
頭を抱えるのをやめ京介は立ち上がった。
「郁人。」
「何。」
たびたび仕事を中断させられたことにより少々苛ついた口調の郁人だったが、それでも京介の呼びかけには律儀に答えた。
「十三時間、だ。」
言うや否や、京介は郁人の座っているキャスター付きの椅子を後ろへと思い切り引っ張った。
ごろごろと音を立て、椅子は上にいる郁人ごとフローリングの床を滑る。
床にある書類は椅子が滑る分だけ綺麗に端に除けられていた。
「……。」
郁人、しばし無言。
「京介……。」
仕事の邪魔をされたことについて怒るのかと思いきや、郁人は何とも言えない悲しそうな顔をしていた。
すくと椅子から立ち上がり、京介に歩み寄る。
そして自分より少しばかり高い位置にある肩を掴み、力強い声で言った。
「京介、安心しろ。俺はお前を見捨てない。」
郁人の中では、まだ京介認知症説が生きていたらしい。
がくりと頭をたれた京介だったが、修羅場状態での郁人の支離滅裂発言は今に始まったことではない。
普段は一般人を装っている郁人も、このときばかりは地の性格が出てしまうのだ。
「だから俺は仕事する。飯はあと五時間もしたら食べるから、そこに置いといてくれ……。」
「待て郁人。いいか、俺は正常だ。」
さらに仕事を続行させようと京介の肩から離れかけた手を、京介は逆に捕らえた。
そして言い聞かせるようにゆっくりと喋る。
恋人よりも仕事を優先させるあたり、今の郁人は相当キていた。
「さっきも言ったが、お前がここに籠ってた時間は一時間じゃなくて十三時間だ。飲まず食わずで仕事に取り掛かるのもいい加減にしろ。」
俺がいないとぶっ倒れるまでパソコンの前に座り続けるから、定期的に食事を運ばなければならない。
これは、京介が自分の経験から得た教訓だ。
仕事部屋には菓子パンと飲料の入ったペットボトルが二本置いてあったが、郁人は仕事に熱中しすぎると寝食を忘れてしまう。
倒れることもしばしばあった。
それを見兼ねた京介は、郁人の仕事が忙しくなると食事を作りに桂井家まで出向くことにしたのだ。
「あー……。」
京介の言葉でやっとトランス状態から抜け出せたのか、郁人はもう一度時計を見た後、ばつの悪そうに視線をさまよわせた。
「その、悪い。」
一言詫び、照れ隠しからか頬をかく。
「まあいい。とにかく郁人、とりあえず飯食っちまえよ。」
「でも仕事……。」
「倒れたら仕事も何もないだろ。飯食ったら少しでいいから寝とけ。隈できてんぞ。」
京介が自分の目の下を指さしながら、郁人の鼻をぱしんと弾いた。
口調は荒いが郁人を心配する京介。
その言葉に逆らう気は、郁人には起きなかった。