トートバッグを片手に持ち、あさぎは家を出た。
先日最終回を迎えたドラマの主題歌を鼻歌で歌っていると、
あさぎはある建物に気づいた。
「………MAHO堂?」
看板にはでかでかとMAHO堂という文字が書かれていた。
「MAHO………魔法堂?」
つい、口から魔法という言葉が出た。
「……………のぞいてみようかな。」
魔女の血が流れているせいか、あさぎは好奇心が抑えきれなくなり、
MAHO堂に入ることにした。
扉を押すとチリリン、というベルが鳴った。
………だが、店内は薄暗く、不気味さが漂っている。
「すみませーん、誰かいませんかー?」
声を出してみるが、何の反応もない。
「……………うーん、弱ったなぁ………開店休業状態?」
今のあさぎにできることと言えば、薬関係の魔法しか使うことができない。
相手を攻撃したり、することは教わっていない。
その必要がないから、と祖母に言われたからだ。
平和な時代に、攻撃的な魔法を使えばそれこそ第二次世界大戦よりも悲惨なことになる、と祖母が
言っていたのを覚えている。
「………すみませーん、誰かいますかー?」
もう1度、声をかけてみる。すると、シャランシャラン、と何かが降りてくる音が聞こえた。
「…………え?」
建物の奥には中庭に通じる通路があった。
音はそこから聞こえてくる。
見つかったら素直に謝ろうと思い、あさぎは店内を進んだ。
中庭に入ると、馬車があった。
そしてそこには、ベールを被ったドレス姿の女性がいた。



「………こんにちは。」
「こんにちは。今日は良い天気ですね。」
「はい。…………あの、ひょっとして魔女界の女王様ですか?」

あさぎの問いに女性………魔女界の女王様はええ、と頷いた。

「あ、すみません。私のおばあちゃん、魔女界出身なもので。
次期女王でもないのに強い魔力を持っていたから、追放されたって言っていたけど
幸せな人生を送ることができたって言っていましたから。」

「………まあ、貴女のおばあ様も魔女だったのですか?」
「ええ、去年老衰で亡くなりましたけど。
マジョリリィ、という名前でした。」
「マジョリリィ………確かそういう名前の魔女がいたことは聞いています。
ええ、そういえば私が女王になる前、強すぎる魔力のために魔女界を追放されたそうですが、
そうでしたか。」

「………はい。」

「貴女にはすべてを打ち明けていたのですね。」
「ええ、小さい頃はおばあちゃんに育てられましたから。
その関係で色々と。
…………それで、女王様はどうしてこのようなところに?
私は散歩をしていたら、ここの看板が目に入ったので、中に入りましたけど。」


続く。