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ACT1-(8)


「……………って、あれ。」

品物を見定めている流司をよそに、あさぎはあることに気づいた。

「……やだ、プリムおばあちゃん、魔法の実を忘れてる!!」

「……魔法の実?」


「魔法玉数十倍の魔法力を発する魔法力の詰まった木の実のことよ。
魔女界じゃ、お金代わりにもなるの。
基本的には魔法の実のなる木を育てるんだけど……。
参ったわ、これ、届けに行ってくるわね。」

「あ、じゃあ、俺も行く。」

「………何で。」

「興味があるから。」

「………………もう、好きにすれば。」

そういうとあさぎはタップを取り出した。


「それで魔女に変身するのか?」

「まぁね。」

あさぎはタップをカスタネットのように叩くと、魔女服に着替えた。

「おぉ、すげぇ。似合ってんじゃん。」

「………うっさい。」

「顔が赤いぞ。」

「誰のせいだと思ってんの。」

タップから箒を取り出したあさぎはそれにまたがった。

「ほら、乗る。」
「はいよ。」

流司が箒に乗ったことを確認したあさぎは指を鳴らして、魔女界に通じる扉を開けた。


「それじゃあ、出発進行!!」



続く。

ACT1-(7)


「………何でそんなことを聞くの?」

流司の問いに、あさぎは逆に聞き返した。

「………うちのおばあちゃんは確かに長生きしていたけど。単にそれだけよ?」

「…………正直に答えてくれよ。」

「…………だから、何でそんなことを聞くの?」

あさぎはマジョプリムから、正体を見破られた魔女は魔女ガエルになってしまうという呪いが
かつてあったことを聞いていた。

だが、まだ魔女が受け入れられるまでには時間がかかる。
そのため、人間界にやってきた魔女はひっそりと暮らしている……という現状も知っていた。

「…………………俺、魔法って言うのを信じているんだ。」


「………へぇ、意外。芸能界って時に重たい現実突き刺さる時があるから、リアリストが多いのかと思ってた。
ロマンチストなのね。」
「そうだよ、俺はロマンチストなんだ。
…………うちの曾ばあちゃんの話なんだけど。」

「うん。」

「………友達だと思っていた子が、魔女で。魔女ガエルになってしまったんだよ。
曾ばあちゃんがうっかり正体を知っちゃってさ。
でも、魔女になることを嫌がったんだ。………それっきり、その友達がどうなったのかはわからない。
曾ばあちゃんは最期の最期まで後悔してた。
友達を魔女ガエルにしてしまったまま、別れてしまったことを。」

「…………………魔女見習いになることを拒否したのね。まあ、当然と言えば当然か。
そうそうホイホイと魔女見習いから魔女になるのは難しいもの。」


「………あ、やっぱりその口ぶりからするとお前のばあちゃん、魔女だったんだ。」
「………はぁ。仕方がないわね………。そうよ、私のおばあちゃんは魔女だったの。」


「……魔女ガエルにはならないのか?」
「ならないわよ。魔女界で、
大規模なマジカルステージを行って魔女ガエルの呪いを解いたって聞いているから。」

「………マジカルステージ?」

「そ。大がかりな術式のことね。それを魔女界全体でやったの。
だから、魔女ガエルにはならない。安心して良いわ。」

「もしお前が魔女ガエルになったら、俺魔法使い見習いにならなきゃいけなかったってことか。」

「……嫌よ、芸能界と魔法使い界を背負って立つ魔法使い見習いなんて。
うっかり魔女界のこととかを喋るんじゃないかって心配するわ。」


「そりゃ、そうだ。」

あさぎの話に流司はあはは、と笑った。

「……でも私が魔女だってことは内緒にしておいて。」

「ああ、それは約束する。………曾ばあちゃんの償いは俺の償いでもあるからな。」

「それは曾おばあ様の償い。貴方の償いじゃないわ。」

「でも、背負う権利はあるだろう?外見だけで判断するのは良くないって散々言われているから。」
「………あ、そう。ところで。」



「……何?」

「ここに来たのなら、花の1つや2つ、買っていきなさい。
まさか、タダで帰れると思ってんの?」


「……現金な奴。」


続く。

ACT1-(6)


「………ねぇ、何でついてくるの?」
「え?だって、俺、鹿目さんに学校案内してもらいたいんだけど?」
「……だからって!!トイレにまでついてくることないでしょ!?」
あさぎは女子トイレを指差すと流司に向かって叫んだ。
「あ、じゃあ、俺トイレ前で待っているから。」
にこやかに笑う流司にあさぎはワナワナと震えた。
「クラスメイトに頼んだら?キャーキャー喜んで案内してくれるわよ。」
「いや、俺、キャーキャー言ってくる子、嫌いなんだよね。
舞台上とかならともかくさ、日常生活は嫌なんだよ。
鹿目さん、それ言わないタイプだからラッキーって思って。
あ、下の名前で呼んでもいい?俺のこと流司って呼んでいいから。」
「誰が呼ぶか!」
そういうとあさぎは女子トイレに入った。
「………何か鹿目さん、凄いよね………。」
「……うん。私、鹿目さんのおばあちゃん、杖1本で熊退治したって聞いた………。」
「え、それ本当!?」
「うん、コモドオオトカゲと戦ったことあるの?って聞いたら、ないって言われちゃって……。
でも、杖1本で熊を退治したことならあるって。」
「すごいなぁ、あさぎのおばあちゃん!」
「だから、下の名前で呼ぶなっつってるでしょ!?」
トイレを済ませたあさぎは流司に向かって叫んだ。


放課後になり、あさぎはMAHO堂に向かった。

「………はあ……疲れた…………ってあれ、プラムおばあちゃん?」


店内に入ると、プラムがいなかったため、あさぎはテーブルを見た。


「………ええっと、魔女界に行ってきます、店番よろしくね。……何だ、そっか。
買い出しにでも行ったのかな?」

「ハロー、あさぎ!」

紙をしまうとガチャリ、と扉が開く音がして流司が入ってきた。

「………いや待ちなさい。何でアンタがここにいるの?」
「後を追いかけてきた!」

「ストーカーか!?」


「仕事はどうしたの!?」

「今日は休み!………へぇ、ここがMAHO堂か。結構古いんだな。」

「リノベーションしたからよ。………言っておくけど、お茶出ないからね。」

「わかってるよ、それぐらい。」

「………で、何の用なの?」
「あさぎに聞きたいことがあってさ。」


「何よ。」

「…………あさぎのばあちゃんって魔女だったのか?」


続く。

ACT1-(5)

…………そして、次の日。


「…………よし、こんなもんで良いかな。」

美月大学付属高校の廊下であさぎはMAHO堂のポスターを貼った。

「……へぇ、花屋さんをするんだ。」

クラスメイトに声をかけられて、あさぎはクルッと振り向いた。

「うん。知り合いが急に亡くなって、引き継いでくれる人を探していたんだ。」
「良かった、美月町は花屋さんが少ないから買いに行くね。」
「ありがとう。」

「………ねぇ、ところで鹿目さんのおばあさんってコモドオオトカゲと戦ったってホント?」
「いやいやいや、そんな大きなトカゲと戦って勝ったって話は聞かないよ。
……まぁ、熊ならぶっ倒したことがあるけど。杖1本で。」

「……え、嘘!?凄くない!?」
実際には魔法の杖を使って追い払っただけなのだが、嘘をついているわけではないので
あさぎは訂正しなかった。
「………鹿目さんのおばあさん、人間やめてない?」
「いやー……長生きをしていたことだけが取り柄だったからねー…………。」



「………あー、てなわけでお前らに新しいクラスメイトを紹介する。
本来なら入学式に出席するはずだったんだが、ちょっと芸能界の事情って奴で出れなかった
玉置流司クンだ。」

「ちわっす、俳優やっている玉置流司です。よろしく。」


流司が挨拶をすると、女子生徒達は黄色い歓声をあげ男子生徒はおぉ、と声をあげた。

「………………。」

「?」

流司はただ1人、窓の外を眺めていたあさぎに首を傾げた。


「席はそうだな、鹿目の隣が空いている。……おぉい、鹿目。」
「はい、何でしょう。」

「学校案内やってくれ。放課後までは時間あるだろう?」
「………そうですね。」

「よろしく、鹿目さん?」

あさぎの隣に移動した流司はそういうとにこやかに笑った。


「………………よろしく。」


続く。

ACT1-(4)

美月大学付属高校。


体育館で行われていた入学式が終わり、新入生達は各々の教室に戻った。

教室に戻ったあさぎは帰り支度を済ませ、職員室にでも寄ろうかと考えていた。

「あ、ねぇ。鹿目さん。良かったらカラオケしに行かない?」

「ごめん。私、都合が悪いんだ。また良い時に声をかけてくれる?」

手に持ったバイト届をヒラヒラと振ると、クラスメイトはそっかと頷いた。

「じゃあ、またね。」

あさぎが教室から出ていくとクラスメイト達はひそひそと話をした。

「鹿目さん、変わっているよねー。」

「ご両親が多忙過ぎて、おばあちゃんに育てて貰ったんだって。」

「え、それって育児放棄?」
「ちょっと、言い方が失礼だよ!」

「これ、ホントかどうかわからないけどさ。鹿目さんのおばあちゃんって普通の人間じゃないらしいよ?
何か魔法使いだとかどうとかって聞いたけど。」

「それ、ただの噂でしょ?魔法使いなんて存在するわけないじゃん。」


「………聞こえているっつーの。」

あさぎは廊下を歩きながら、ボソッと呟いた。


バイト届を提出した後、あさぎはMAHO堂に寄った。
そこには1人の初老の女性が待っていた。


「あら、貴女が鹿目あさぎさん?」
「はい。えっと、魔女界の人ですよね?」

「ええ、私はマジョプラム。マジョリリィのことは常々聞いていましたよ。
魔力が強すぎるせいで魔女界を追放されたって聞きましたけど、幸せな最期を迎えたそうね。」


「………はい。安らかな最期を迎えました。
女王様にお会いできなかったのが心残りだったそうですけど。」

「そうねぇ………今の女王様はお優しいお方だから、色々融通を利かせてくれる性格よ?」
「そうなんですか………。」

「さて、早速で悪いけど植物を運んじゃいましょうか。」
「はい!」


続く。
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