織姫と彦星の閏年



2013.1.3 Thu 22:55 :その他/日記?
キルア妄想話


雨が降り始める。出かけ間際に見た天気予報では今日の降水確立は30%。だからキルも私も傘を持ってこなかった。荷物になるのでなるべく持ちたくなかったのが一番の理由だがそれ以前にまさかここまで大降りだとは予想していなかった。30%=小雨だと決めつけていたのが悪かった。 あーあ、せっかくのお出かけが台無し…。姉弟で家に揃っていることは今はもう滅多にないのに。お互いそんなことを思ったのか顔を見合わせ苦笑。それから同時に顔を前に向け、傘は買わずにそのまま家まで全力疾走した。
家に着くと2人は急いで脱げるものは脱ぎ、文句を言いながら着替えつつタオルで髪と体をゴシゴシ拭き始める。
「ったく、天気予報もあてになんねーな」「30%でも降るってお知らせしてくれたんだからそう言わないの。ほらっ、キル。髪の毛ちゃんと拭いて」「わっ!!ちょ、やめっ…!おいっ、ねーちゃん!」「大人しくおねーさまに拭かれなさい」「いや、そういうのいーから!」「よくない。お風呂沸くまででも、しっかり拭いておかないとね」「………チッ…」キルは諦めたのか大人しく下を向いて拭かれている。

………。おかしい。なんだか空気がいつもと違う。ただ拭いているだけな私に対してキルは少し落ち込んだような…そんな空気を醸し出している。話しかけづらい……。困った。大人しく拭かれなさい!と言いだしたのはこちらなのでここで手は休められない。不安になりつつも優しくポンポンと拭き続ける。

「なあ。ねーちゃん」今まで黙っていたキルがぽつりと声を漏らした。「ん?」「………」しかしその後は応答がない。声をかけてきたのはキルだよね…?疑問に思いながらも黙ってそろそろ湿り気が少なくなってきたキルの髪を拭きながら、次の言葉を待つ。

「………ね ちゃ… って、 だの  お  … ? 」
眉間にしわを寄せながら目をパチパチと瞬かせる。集中していなければ聞こえないほどの声でよく聞き取れなかった。なんだろう。無言という空気で“もう一度お願いします”と伝えてみる。
伝わったのか伝わらなかったのかわからないけれどキルは下げていた頭をゆっくりとあげた。「……っ!!」ドキッとした。あげられた顔がとても切なそうな目をしていたから。
「ねぇちゃん…」さっきよりは大きくはっきりした声だったが、まだ弱弱しさが含まれており、その声に私の胸は締め付けられる。この感覚はなんだろう。悲しい?…違う。他の何かだとわかるのに適した言葉がでてこない。

聞いちゃいけない。この先は聞いちゃいけない、そう思うのに聞きたいと願う私がいる。

「ねえちゃん…オレ、は……」キルが私の顔に手を伸ばし、続ける。

「ねーちゃんが好きだよ」意を決したような、でも切なさは残したままの目で見つめられる。
何か言いたいのに何も言えない。目が真剣過ぎてヘタな返しができない。
「…ぁ…、っ…」言葉にしたいのにできず、途切れた変な声が出た。
顔が熱い。赤くなっていくのがわかる。胸が疼く。体の中が震えている。キルの目から視線を外したいのにできない。外したら終わる。何かが終わる。

キルの顔が近づいてくる。

形のいい唇が小さく開いて、猫のような目が閉じられていく。

私の口はまだ何かを言おうとして頑張るけれど、最後に囁くように言われた「好きだ」の言葉でついに諦め、キルアを受け入れた。


 0 


b o o k m a r k




p r e v n e x t
g o  t o  t o p

-エムブロ-