今までの拍手お礼小説logを載せています。

・全て黄黒です。
・一部R指定な表現あります。



【1】
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「黒子っち黒子っち、手つながないッスか?……わ、冷た」


「返事する前につないでるじゃないですか」


「黒子っち、手冷たいッスねー」


「その分、心があったかいんです。…黄瀬くんの手は温かいですね」


「あ、俺は手も心もあったかいッスよ?黒子っちへの愛で満ち溢れてるッスから」


「…温かいを通り越して暑苦しいですね」



互いの温度が混ざり合うように、


絡めた指に力を込めた。



「…黄瀬くん、ちょっと痛いです」


「ご、ごめん!つい…。離した方が良いッスか?」


「…そんなのもっと嫌です」



手をつないでいられますように。

このまま、ずっとずっと。


【2】
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どれだけ体を重ねても、この指先は冷たいまま。


「…あっつー」
肌をすべり落ちる雫の感触に目を開ける。事後のけだるさと、にじむ汗を吸った布団で体が重い。
額を拭い、見上げた置き時計の液晶は午前2時を示していた。厚いカーテンの内では、この薄緑色の光しか見えない。
(いつもこの時間ッスね)
傍らには規則正しい呼吸。黒子の眠りが深いことに安堵して、黄瀬はエアコンのスイッチを入れた。低い起動音に数秒遅れて生ぬるい風。

『好き、大好き。…ずっと前からッスよ』
『知ってます』
(この気持ちも行為も、何も届かない)
『ね、気持ちいい?』
『…、ぁ』
『ここは?』
(こんな時しか、君の仕種は饒舌にならない)


薄緑に照らされる白い頬。睫毛はゆるやかな曲線でふるえる影を落としている。
(もうさよならなんて言わないで)
ふれた指先はいつもどおり冷たくて、強くつないだらきっと溶けてしまう。
「黒子っち」
絡めた小指が離れていかないように祈りながら。
(さよなら、なんて)
まぶたが落ちる。
(さみしいこと言わないで)


こんな薄っぺらい言葉じゃ、君をつなぎ止められないのに。

 
【3】
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「黒子っち!どうしたんスか?黒子っちの方からウチのクラスに来てくれるなんて珍しいッスね」
「すみません、数学の教科書を貸してもらえますか?」
「別にいいッスけど…。俺に会いに来てくれたんじゃ、」
「教科書を借りに来ただけです」
「…冗談なのに厳しいッスね」

苦笑いを浮かべた黄瀬が、角の折れた教科書を手渡す。ありがとうございますと黒子は頭を下げた。

「次の休み時間には返します」
「了解ッス」



5時限目。
黒板の数式を書き写しながら、黒子は黄瀬に借りた教科書をめくった。ふとページの隅に目が止まる。

「…?」

鉛筆描きでところどころかすれているが、人がバスケのゴールを狙う様子が描かれている。

(黄瀬くんって絵も上手いんですね)

前後のページを見てみたところ、どうやらパラパラ漫画になっているようだ。
ドリブル、3Pシュート、ダンク、と次々にプレーを見せていく。
黒子がページを送る速さを変えると、鉛筆描きの彼はゆっくりと、そして素早く3Pを決めていった。
背番号は、8。

(…教科書に描くのはどうかと思いますけど)

練習問題の解説が始まる。黒子はページを繰る手を止め、シャープペンシルの頭を顎に当てながら前を向いた。

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「教科書、助かりました」
「どういたしまして。黒子っちならいつでも貸すッスよ」
「…そういえばどのページも真っ白でしたけど」
「え?あ、えーと、それは…」
「少しは勉強もして下さい」
「…耳が痛いッス」

両耳をふさぐ彼に、小さくため息がもれた。

「じゃあ、また部活で」
「はーい…」


『かっこよかったです』


最後のページの隅に、彼はいつ気がつくだろうか。
軽く頭を下げて、黒子は隣の教室を後にした。


【4】
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「くーろこっち!」


「何ですか?黄瀬くん」


「もうすぐ3年になるし、お互いそろそろ新しい呼び方にしないッスか?」


「いえ、僕は別「黒っちはどうッスか?」


「ちょっとは僕の話を聞いて下さい。…却下します」


「じゃあテツヤっち?テツっちは?」


「『〇〇っち』以外に選択肢はないんですか…」


「黒子っちは俺が認めた人ッスから」


「…呼び名を変える意味があるんですか?」


「んー…。じゃ、じゃあ……テツ…とか……」


「…そんなところまで憧れてたんですか」


「うー…真似ばっかりで悪かったッスね」


「すみません、…涼太くん」


「え…っ、あ、あれ、」


「どうしました?涼ちゃん」


「…!!あ、あの、やっぱり今まで通りでいいッス!」


「…はいはい」


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(どうかわらっていてください)


あたたかいベッドにもぐりこんで、あたたかい腕に抱き寄せられて一体どれくらいの時間が経っただろうか。
遠く雨の音が聞こえる。
重いまぶたを閉じたまま、僕は浮き沈みする意識の中を漂っていた。

(…きもちいい)

とろとろと微睡んでいると、頭をなでるように髪を梳かれるのが分かった。何度も、何度も。
目を開けると、思ったより近くで黄瀬くんと目があう。

「…。あ、れ?」

「ごめん、起こしちゃった?」

まばたきを繰り返した後、慌てて眠気の残る目をこすった。
黄瀬くんの腕の中でうたた寝をしていたことを思い出した途端、急に意識が冴えてくる。

「こちらこそすみません。…すぐ起こしてくれたら良かったのに」

「いいんスよ。すごく気持ち良さそうだったから」

幸せそうに笑って、黄瀬くんは僕の髪に触れた。
壊れ物を扱うような指先に気恥ずかしくなって、思わず身をよじる。

「やっぱ黒子っちかわいい」

女の子みたい。そう言って目を細める彼は、同じ歳とは思えないくらい妖艶だと思う。

「女の子じゃなくてすみません」

「んーん、全然」

額にひとつキスを落とすと、黄瀬くんは嬉しそうに笑った。
二人でいる時の彼は、今のように『とろけそう』という言葉がぴったりくる表情を浮かべていることが多い。

(その顔が好き、なんて絶対言いませんけど)

「君ならいくらでも女の子と遊べるじゃないですか。僕にこだわらなくても、」

「俺は黒子っちがいいの」

腕に力がこもり、自然と黄瀬くんの胸に耳をくっつけるかたちになる。
規則正しいリズムと黄瀬くんの体温に、またまぶたが重たくなってくる。

「寝る?」

黄瀬くんの胸に顔を押し付けたまま、首を横に振る。

「今日はずいぶん甘えるんスね、黒子っち」

「…もう少しだけです」

「りょーかい」

(もうすこしだけ、わらっていてください)


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(ああ、そっか、知らないうちにこんなにも、)


「黒子っち」

「なんですか……ってちょっと、」

ベッドの上でテレビを見ながら髪を乾かしていると、床に座っていた黄瀬くんに突然足首をつかまれた。そのままするりと爪をなぞられる。
お互いのオフが重なった土曜日の夜、僕は誘われるまま黄瀬くんの部屋で過ごしていた。シャンプーの匂いをさせて僕を出迎えながら「一緒にお風呂に入ろう」と駄々をこねる彼をなだめすかし、ようやくテレビの前に座らせたというのに。

「くすぐったいです」

「だって黒子っちがかまってくれないんスもん」

抗議の声を上げるも、唇を尖らせた彼に効果はなかった。どうやら髪を乾かす暇もくれないようだ。

「さっきまでテレビ見てたじゃないですか。ちょっと待って……」

「俺はイチャイチャしたいのー。せっかくのお泊まりなんスよ?」

足をばたつかせるも力の差は歴然で、しつこく爪をなでる指先が絡みついて離れない。生乾きの前髪が額にはりついて気持ち悪かった。

「……じゃあ髪を乾かしてもらえますか?」

冗談のつもりで口にした一言に、意外にも黄瀬くんの顔がぱっと明るくなった。

「了解っス!こっちに座って」

目を輝かせながらシーツを叩く黄瀬くんに思わず苦笑を浮かべる。
言われた通りベッドの端に腰かけていると、奥の部屋からわざわざ新しいタオルを手にした黄瀬くんが現れた。
床に膝をつき、僕の向かいに膝立ちになる。

「普通、後ろから乾かしませんか?」

「いいからいいから。はい、目つぶってー」

気が付けば真っ白なタオルで頭をくるまれてしまっていて、仕方なくそのまま目を閉じる。
頭のてっぺんから前髪、襟足までまんべんなくタオル越しに彼の手が触れていく。我ながら良い思いつきだったらしい。

「慣れてますね」

「見よう見まねっスよ。こんなことするの黒子っちがはじめて」

小さく笑う気配がして、目をとじていても周囲が明るくなるのが分かった。
ありがとうございます、と言いかけた唇を慣れた柔らかい感触がふさぐ。

「……はい、おしまい」

顔を離して嬉しそうに目を細める黄瀬くんを憮然として見やる。

「最後をやりたかっただけじゃないですか」

「えへへ、でもちゃんと乾いたでしょ」

それに、と付け加える彼の目がまっすぐに僕を映す。

「こういうの嫌いじゃないっスよね?」

「……むしろ足りないくらいです」

僕は黄瀬くんの首に腕をまわして、もう一度目を閉じた。

(知らないうちにこんなにも君を、)


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成分表の約3割はあまいもの


ありがとうございましたー、と間延びする声を背中に受けながら俺は足早に自動ドアを出た。冷房の効きすぎた店内から一転、一気に上がる体感温度にじわりと汗がにじむ気がする。
すっかり真っ黒になってしまった空の下、コンビニの白い光に照らされながらアイスの袋を開ける黒子っちに片手を上げて近寄る。

「お待たせー」

「いえ。……お先にいただきます」

そう言って彼はその髪によく似た色のアイスに噛み付いた。霜の降りた表面はまだ硬そうで、よく歯をたてられるものだと感心した。

帝光中学からの帰り道、その途中にあるコンビニで甘いものを口にしながら立ち話をする、たかが十分にも満たない時間。夏の強化練習が始まってから、ほとんど欠かすことなく続けられてきた日課だった。
二人きりになりたいという自分の邪な心から始まった習慣だけれど、『教育係』という名目もあってか黒子っちは文句ひとつ言わずに付き合ってくれている。
アイスをかじる横顔を眺めているうちに自然と笑みが浮かんだ。この関係は思ったより悪くないかもしれない。

もちろん、ずっとこのままで終わらせるつもりはないけれど。

「黒子っち、今日も絶好調だったっスね」

「黄瀬くんこそ」

こちらを見上げた彼の視線が、俺の右手に注がれる。赤く透き通った紅茶のペットボトル。

「またいつものですね」

「そ。疲れてると甘いものが欲しくなるけど、ジュースの飲み過ぎは良くないっスから。一応モデルだし」

そう言ってペットボトルを軽く振ってみせると、彼のこぼれ落ちそうに大きな瞳が幾度かまばたきを繰り返した。

「?何スか?」

「すみません、てっきりストラップが目当てなんだと思ってました。……色々考えてたんですね」

「ひどっ!まぁ間違ってないっスけど」

苦笑いを浮かべてペットボトルの首に下げられた袋を開ける。ペットボトル飲料の『おまけ』、特にこの紅茶に付いてくる様々なお菓子を模したストラップを集めるのが俺の密かな趣味だった。とは言え部活帰りに必ず同じ紅茶ばかり買っているから黒子っちにはとっくに知られていたし、彼相手に隠しごとをする気は元々ない。
手のひらに転がり出てきたのは金の包み紙にくるまれたビターチョコレート。苺や生クリームを模したストラップよりはまだ抵抗がないだろうと選んでみたけれど。

夜空を見上げながらアイスを咀嚼する黒子っちを横目で確認して、俺は不自然にならないよう「あ」と声をあげた。

「あー、俺これ持ってる!」

「……」

「同じの二つ買うなんて一生の不覚っス…!」

「……ご愁傷様です」

俳優さながらの熱演もむなしく、黒子っちは相変わらず淡々とアイスをかじっている。
仕方なく袖を引いてこちらを向かせると、俺はすかさずストラップを差し出した。

「何ですか?」

「……あげる」

「結構です」

「即答!?」

「男がこういう可愛らしいものを持ってたら変じゃないですか」

「ちょ、俺に対する嫌味っスかそれ……。いいじゃないスか、黒子っち甘いもの好きだし」

「黄瀬くんのいらないものを押し付けられても困ります」

「そういうわけじゃ……えーとほら、絶好調な黒子っちへ俺からのささやかなプレゼントってことで。ね?」

俺の手のひらと顔を行ったり来たりする訝しげな視線に焦れて、彼の足元に置かれたスポーツバッグに半ば強引にストラップを通す。黒子っちは俺を見下ろしながらやや眉をひそめたけれど、何も言わずに残ったアイスへと目を戻した。

俯いたまま気付かれないようこっそりと目を細める。使い込まれたスポーツバッグに真新しいビターチョコレートが飾られて、何だかバッグまで新しくなったようだった。

ストラップがかぶったのは偶然じゃない。わざとチョコレートのものを列の奥から探し出して選んだのだ。
そもそも本当は紅茶を買う必要もなかった。とうの昔に全種類集めてしまっているのだから。

……しばらくは付けていてくれるだろうか。
ひどく単純で、我ながら臆病な願望。あくまで友達の一線を守ったまま彼とお揃いのものがほしい、なんて。

「黄瀬くん」

「へ?」

しゃがみこんでバッグを眺めていた俺の目の前に、突然アイスの棒が突き出される。困惑しながら受け取ったそれを何気なくひっくり返した瞬間、俺は小さく息をのんだ。

「……明日も早いですし、そろそろ帰りましょうか」

「黒子っち、これ」

「黄瀬くんが絶好調なので、そのお祝いです」

バッグを拾い上げて夜道へと足を踏み出す彼の背中に慌てて駆け寄る。もう一度目を向けたアイスの棒には間違いなく『あたり』の三文字。
黒子っちはずるい。隣を歩く横顔はいつもと変わらない無表情なのに、それすらこんなに愛しくさせる。

「黒子っちって時々すごく男前っスよね」

「……嫌味ですか」

「もう、違うって。……ありがと、黒子っち。ストラップ捨てちゃだめっスよ?」

「はいはい」

明日も黒子っちと思いっきりバスケをして、思いっきり汗をかいて疲れて、帰りは黒子っちと一緒に同じアイスを食べよう。
晴れやかな気持ちで俺は暗い空を見上げる。体中が痛くて悲鳴をあげているのに、明日が楽しみで仕方がない。

隣を歩く華奢な肩にかけられたスポーツバッグで、俺の渡したストラップがきらきら揺れていた。


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ここまで読んで下さりありがとうございました!!
拍手logは順次追加予定です。

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