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狐の嫁入り
近所に二つ年上の女の先輩がいた。
勉強は出来るんだけど、それ以外はまるで駄目な先輩だった｡
異常に空気が読めなかったり、他人の感情が理解できない時があったり｡
コミュニケーション能力に少し問題があって、学校ではずっと孤立していた。
それでも、いつもヘラヘラと笑っているような人だった｡
しかし、内心ではそれなりに思う所もあったみたいだ｡
だから、幼馴染の俺には何かと理由をつけては頼ってきた。
家でも先輩は、なんとなく疎まれていたみたいだ｡
家族も
｢娘の事は彼に任せておこう｡｣
と考えていたようだった。
そんな関係は、先輩が先に中学に上がっても続いた｡
そして、それが嫌になっていた俺は、わざと先輩から嫌われようとした｡
頼られる度に
｢代償として胸揉ませろ｡｣
とか
｢キスさせろ｡｣
とか迫ってみる事にした。
もちろん本気じゃなかったし、最初は先輩も笑って相手にしなかった｡
しかし、俺が面倒がっているのは本当だと気づくと、次第に俺の言う事に従い始めた。
現金なもので、ご褒美が出るとなると、今度はこっちから先輩に応えるようになった｡
むしろ、それ目当てで向こうの家に入り浸っていった。
先輩の家族も、俺達の関係が変わった事には気づいたようだったが
｢厄介者である娘を引き受けてくれるなら｡｣
という感じで、半ば黙認状態だった。
ただ、先輩の祖母さんだけは違っていた｡
居合わせると胡散臭げな態度をとるし、監視するような素振りも見せた。
この祖母さんも変わった人で、祖父さんを戦争で亡くしてからは、稲荷信仰が全てという生活をしていた。
その稲荷も正式に勧請したものではない｡
しかし、事ある毎にお告げだ何だと家族や周囲に迷惑をかけるので、こちらも厄介者扱いをされていた。
でも、同じような立場の先輩は祖母さんの事を気にかけていたみたいだ｡
普段はかなり無茶な事でも受け入れてくれるようになっていたのに、祖母さんの目がある時だけは、やんわりと拒否してきた。
それでも俺が無理に迫ると、先輩は断りきれない場合が多かったのだが｡
最後の一線だけは絶対に譲ってくれなかった。
高校に上がって、さすがに我慢できなくなった俺はついに先輩を留守宅で押し倒してしまった｡
しかし、祖母さんが寸前に帰宅したせいで未遂に終わった。
レイプに失敗して俺が拗ねていると、先輩は妙な事を話し始めた。
｢自分はいずれ、狐の元に嫁入りをする｡｣
｢だから君の言う事は何でも聞いて上げたいけど、最後までするのだけはどうしても駄目｡｣
よく話を訊いてみると、先輩は難産で危なかった所を、祖母さんが稲荷に
｢いずれ嫁に差し出すから、どうか無事生まれるように｡｣
と祈ってくれたおかげで、今ここに生きていられるのだという事だった。
普段は何があってもぼんやりしているか、笑っているかの先輩だった｡
しかしその時だけは、あまりにも真剣にそう言って拒むので、その後、俺は無理矢理にしようとはしなかった。
気味が悪いと思わなくもなかった｡
しかし、今さらながら
｢先輩をマジで好きになりかけている自分に、なんとなく気づいてしまった｡｣
と言うのも、その理由の一つだった。
当然だが、やがて先に高校を卒業した先輩は、県外の有名大学に進学を決めた。
春休みのある日、もう向こうに行っていたはずの先輩が俺に会いにきて、いきなり
｢自分を抱いてほしい｡｣
と言い出した。
前に拒まれてもいるし、俺としては一度仕切り直してからと決心していたから、その要求はつっぱねた。
｢ちゃんとした付き合いをしたいから、そういうのはしばらく無しにしよう｡｣
と話したが、先輩は
｢今じゃなきゃ嫌だ｡｣
の一点張りで、今にも玄関先で叫び出しかねないような錯乱状態に陥ってしまった。
ふと気づいた俺は
｢前の、狐の嫁になる話と何か関係あるのか｡｣
と訊いてみたが、いつかのように祖母さんがちょうどそこに駆けつけてしまった｡
そして先輩を無理に連れ帰ってしまった為、先輩ははっきりとした答えを返してはくれなかった。
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呪われし勇者達の死ぬ程怖い話
