21/07/28 08:46 (:あなたがくれた花はもう枯れてしまった)
〜Prolog〜

手の平に残ったのは思い出の花。

けれどそれはもう枯れてしまった。
とっくの昔に。

押し花にして大切に持っていたかつては
真っ赤だったチューリップの花。

呆気なく枯れてしまったその枯花を
未練たらしく持っている私。

もう手放さなきゃ
持っていても虚しいだけ。

だから捨てようと思っても捨てられない。

だってこれは大切な恋の思い出だから。

大好きだった、彼。

あなたは今、どうしていますか?








「ままぁ〜」

呼んでいるのは私の宝物。
1歳になったばかりの奨(しょう)

最近、後追いが激しくて甘えん坊の彼は
私の姿が視界から消えると大騒ぎする。

案の定、食事の準備中に奥に引っ込んだら
火の着いたように泣いて追いかけてくる。

あぁそんなに顔クシャクシャにして。
涎と涙塗れで私に手を伸ばして懸命に
抱き着いてこようとする。

「おいで?」

少々、呆れつつも手を差し伸べると
真っ直ぐに腕の中にとびこんでくる。

「男の子なのにどうしてそんな泣き虫なの〜?」

胸元に顔を埋めて擦り付ける奨。
抱き上げると嬉しそうにニコニコになる。

傍にあったタオルで奨の顔を拭いてやると
一気に機嫌が直る。

(……この笑顔、あの人にソックリ)

父親の面影を残す奨に切なくなる。

(ダメ、忘れなきゃ)

かぶりを振って脳内の思考を振り払った。




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