きっと夜、眠れなかったのがいけなかったんだ。
気にしちゃいけないのに、気にしちゃうからいけないんだ。
この気持ちが、どこからくるものか、わかっているだけに胸が痛い。
自分だけの気持ちが、凄く痛い。
そんなことを考えていればいるほど、眠くなってくる。
寝惚けてちゃ、駄目。
なのに、瞼が重い……
「掌底破!」
「うおっ」
掌から放たれる衝撃が、リッドを掠めて、彼は跳び跳ねた。
彼が技を交わした代わりに、持っていたシチューの器が犠牲になる。
「ああっ!俺の肉!」
だらしなく溢れたシチューを嘆くリッドを見て、しまったと思った。
「ファラー……」
でも彼は怒らない。
「いい加減にしろよ!食事中だぞ!あ、危ないじゃないか!」
代わりにキールに怒鳴られた。
「ごめんなさい……」
「まあまあそんなに怒んなよキール。お前はさっさと食えって。もう食わないなら俺が食ってやろうか?」
「遠慮するよ!」
「リッド、メルディの食べるか?」
メルディは心配そうに自分の器を差し出した。
「え!?」
あろうことか、リッドは目を輝かせた。
本当に、食べ物には貪欲だ。
「リッド!いいから、わたしのあげるから、メルディのは食べちゃ駄目」
「お?そうか?サンキュー」
リッドは満面の笑みでシチューを取り上げて、やっと一口、食べた。
それを確認してから、メルディも一口。
わたしはその様子を見ながら、落ち着かない気持ちでいた。
お腹が空いてない訳じゃないけど、何か気に食わなかった。
メルディがリッドに自分の物を差し出す図が、どうしてもしっくりこなかった。
「ファラは平気か?」
は、と気づくとメルディの顔が目の前にあった。
「え?」
「お腹空いてないか?」
無理な角度でわたしの顔を覗き込む彼女は、ただわたしを心配してくれている。
周りを見渡すと、キールなんかはもたもたとシチューを食べているし、リッドに至っては人のものを素知らぬ顔してがっついているし。
彼女の何でもない気遣いを、少しでも疎ましく思ってしまったことが、急に恥ずかしくなった。
「うん。大丈夫よ。ありがと、メルディ」
わたしったら、嫌な子。
「はあー!美味かった!ファラ、また腕あげたな!」
すっかり平らげたリッドが、わたしを見て笑った。
「そう?」
「はいな!ファラの作る料理は美味しいな!な、キール」
「ん?うん」
メルディはそれを聞くと嬉しそうにスプーンをくわえた。
「そっか」
すう、とわたしの中から何かが抜けて何かが入り込む。
「よおし!みんな、頑張ろうね!」
「うわっ!だから食事中は静かにしてくれよ!」
「ファラは元気な」
「まあね!」
深呼吸していこう。
ここまで走ってきちゃったんだもの、もう戻れない。
大丈夫。
「いける!いける!」