「ここで会ったが100年目!我等がアイドルMEGMIちゃーん!」
「100年前からラブ注入!みんなのプリンスLK!」
「100年かかって急接近!いけずな妖精、メグミルク!」
スイカは突然現れた二人を、口を開けたまま見下ろした。
なんだかよくわからないが、(自称)妖精が現れた。
メグミルクと名乗る二人の妖精。
二人はスイカの手の平くらいの背丈で、スイカの裸足の足元、さっきからキメのポーズから動かない。
「……牛乳の、妖精?」
スイカがそれだけ言うと、二人はキラキラした笑顔を嘘のように枯らして、落ちていた消しゴムをいじけたように蹴りとばした。
「まぁ、よく言われるけど……」
「ていうかどっちかって言ったらパクったのあっちなんですけど」
「え、何か、あの、悪かったよ。じゃあ何なの?」
二人が手招きをするので、スイカは身を乗り出して、二人に耳を傾けた。
二人は内緒話をするように囁いた。
「メグミルクは靴の妖精さ」
スイカは体を起こした。
「そうなんだ」
「逆に履いたらやあよ。わたしが左」
「僕は右」
スイカは裸足の足を擦り合わせて黙っている。
「どうしたの?あなた靴がないと外に出れないわよ」
「……僕はいらないよ」
「え?何だって?」
「僕は靴なんて履かないよ」
はぁ、二人は息の合ったため息を吐いた。
「あのさあ、こんな部屋にずっと独りでいてあんた何が楽しいの?」
「え、だって……」
「靴がないから外に出れない!でしょ?」
「君がそう言ったから僕らが駆けつけたんじゃないか」
だって……とスイカはまた呟いた。
靴がないんだからしょうがないんだよ、と言おうとして、考える。
「何で、靴なくなっちゃったんだろう」
「靴は履いてあげないと逃げちゃうよ?」
「逃げる?靴が?」
「靴だからね」
ルクは答えになっていない答えをしらっと答えた。
ぽかんとするスイカを見かねて、メグミがぴょん、と跳び跳ねた。
「靴はみんな外に出たいのよ。ちゃんと出してあげなきゃ駄目」
「僕は履かないよ!外になんか出なくていいもん。出れなくたっていいもん」
「何でえ?楽しいじゃない外。こんな自分だけのスペースにいたって駄目よ。外に出ることを忘れちゃ駄目」
「だって、疲れるじゃん。外に出るのは疲れるじゃん。僕はもう、疲れたよ」
自分の足に手で触れて、その冷たさにスイカは少し驚いた。
「そんなこと言って、ホントは出たいんでしょ?」
「え?」
「だっていつも言ってるじゃないか。靴がないから外に『出れない!』って」
出ない、ではなく、出れない。
それは確かにスイカの言葉だった。
「気付いた時には靴が逃げちゃったんだよね」
は、としてスイカは自分の、その冷たい足を握り締めた。
「……僕、マナブと遊びたい!僕、……」
「出ますってールク!」
「それは良かったメグミ!」
「お手柄メグミルク!」
二人の妖精がぱん、と両手でハイタッチをすると、それらは一足の靴になった。

*

今日はどこ行く?
え?お前なぁ、学習しろって。カブトムシはまだ幼虫だよ。土の中だよ。何でそんなにカブトムシ欲しいんだよ。
売るの?やめろよ、そういうリアルな目的。夢ねえなお前。
あ?ああ、スイカ?おう、あいつも誘ってあるよ。

*

「スイカー待ち合わせ遅れるぜー。カブトムシの幼虫とりにいくぜー」
「待って!今 靴履くから 」