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愛玩

彼女のことを知りたいと思ったのは、ただの子供らしい好奇心からでした。
だけどあまりにも彼女が悲しい、憂いを込めた目で「わたしの話なんて聞かなくていいのよ」と言うので、僕はますます彼女に興味を持ってしまったのです。
彼女の恋人だった男の人は、いつも静かで朗らかで優しい人でしたが、彼女以外の人とはあまり口をきかなかったので僕はあまり好きではありませんでした。むしろいつでも寄り添うように彼女の隣にいて、彼女を独り占めしているのを、何故かはわからないままに妬んでいました。
「思い出さなくていいのよ、辛いことだから」
いつか彼女が自分より大きな体を抱き締めながら、あの赤い目をしてそのように何度も何度も囁いているのを聞いて、僕は彼が何か大きな病にかかっていることを知りました。
今思えば、彼女も本当は誰かに聞いて欲しかったのだと思います。
それからというもの、彼女はぽつりぽつりと、自分のことや、彼のことを呟くように僕に話しました。
もうずっと昔から二人は恋人同士だったこと、だけど彼には昔の記憶が殆どないこと、唯一にして最愛のお姉さんと喧嘩別れしてしまったこと、彼女はいつも躊躇いがちに、決して心の奥をさらけ出そうとはしないで、吐き出すように僕に聞かせました。
それから多くの時間が流れて、ある日、彼が記憶を取り戻しました。
何があったのかは知りません。彼女は泣いていました。
彼は自分より小さな体を抱き締めながら、ずっと何かを囁いていました。
僕が知りたいと思っていた話は、とても悲しい話でした。
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