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彼が狼になった日(※PJ)

見上げた時にそこにあったのは、少なくとも長く見知った顔ではなかった。
「こんなこと、ここじゃ珍しくもないんだよ」彼が言う。
そうなのかもしれない。確かに、そんな噂は聞いたことがある。それでいて所詮他人事と思っていたのも確かだ。いつか自分の身にふりかかることかもしれないとどこかで覚悟しながら、本気でそんなこと考えたことなどない。今この瞬間だって、それなりに落ち着いたものだろう。
ただその相手が彼だということだけ、どうも納得がいかない。
少なくとも彼は、今こうしているより前に、それを経験している。それがどんなに恐ろしい行為か、おそらくその身を持って痛感している。
ずっと同じ道をきていた。今の今まで同じところにいると思っていた。それを一瞬にして裏切られた。
ただひとつの行為を知っているか否か、それだけの差に、しかし動揺を隠せない。
とにかく、得体の知れない悔しさと、それに勝るとも劣らないくらいの恐怖と、そこにほんの少しの好奇心が混じり合う。それらが気持ちの悪いひとつの感情として、血液と一緒になって身体中をぐるぐる巡る。
今思えば、その時既に彼は完膚なきまでに痛めつけられた後だったのだ。
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