スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

ノイズ

「――てと言われたから――たんです」
彼は静かな目をしていました。しかし突然ノイズが混じり、彼の言葉を一部かき消しました。
それはもしかしたら、わたしが聞きたくないからなのかもしれません。聞きたくないことには耳を塞ぐ、その癖は最早無意識になっていました。
ノイズを流したのはわたしだとしても、彼の落ち着き様は徹底していました。口元の解像度を高くしても、それは震えてさえいませんでした。
わたしは努めて感情のない声で「それで?」と続きを促しました。
「空へ墜ちろと言われれば、そうするつもりです」
彼は少しばかり微笑みました。わたしの存在を掴みきれないその視線は宙に浮いていました。
それまで自ら口を開こうとはしなかった彼が、その時だけは続けて言いました。
「いえ、――てと言われたから――たんです」
続きを読む
前の記事へ 次の記事へ