でてくるひとたち


when u look at me...


お久しぶりです。

拍手コメント、されたご本人も覚えておられるかわからないけど、とりあえず答えますね。

◎ 02/06 幸せなの?の方へ
幸せです、それなりに。






ゆうと会った話、書いては消し、書いては消し。またそのうち更新します。

今日はぜんぜんちがう話。






カフェの、壁を背にしたひとり用の席についた。ここからは店内がほとんど見渡せる。

ハービー・ハンコックの処女航海が小さい音で流れている。わたしの好きな曲。小さな期待が、ピアノのコードに乗ってやってくる、あの曲。


斜め前の席に座っている男のひとにふと目が止まった。店内の席はほとんど埋まっていて、すぐ近くには派手なファッションに身を包んだ女の子や、お洒落な雑誌から抜け出してきたみたいな外国人カップルもいたのだけれど、なぜかその斜め前の特に大きな特徴もなさげな男のひとが気になった。歳はきっと20代後半か30代前半。


わたしは、湯気を立てるブレンドコーヒーをブラックのまま少しすする。深く苦くて、酸味の少ない素敵なコーヒー。


その男のひとは、2人が向かいあって座るローテーブルに、ひとりで座って、クロワッサンとカフェラテを交互に口に運んでいた。わたしの席は一段高いところにあるから、カップの中身までだいたいわかる。


怪しまれないように、視線を逸らしつつ、こっそりと眺めた。


動作は緩慢で、気だるげ。ネイビーのスエード靴を履いて、キャメルの小ぶりな鞄を膝に乗せて。時間を持て余しているような雰囲気。もしかしたら待ち合わせの時間まで暇を潰しているか、誰かを待っているのかもしれない。


ふと、思い当たることがあった。


このひと、雰囲気がどこかよのもとくんと似ている。


あの頃、わたしはよのもとくんが履いている靴が、ぜんぶ好きだった。よのもとくんが持っている鞄と同じ鞄が欲しいと思っていた。そしていつもよのもとくんはわたしの靴を褒めてくれた。馬鹿みたい。懐かしい。


男のひとは、クロワッサンを食べ終えると、スマートフォンの画面を覗き込んで、無造作に手を口もとに持ってゆく。その動作までよのもとくんを思い出させるから、わたしは、外に漏れないように心の中で小さく笑う。


わたしは、持ってきた文庫本を開いた。


物語を目で追いながら、合間に男のひとを観察する。


しばらくすると、男のひとはあくびをひとつして、背もたれに深くもたれると、うつらうつらし始める。肘掛けのついたカフェの椅子は、よのもとくんの部屋のアンティークチェアを彷彿させる。脚を組んで、腕を組んで。すごく、懐かしい。あの部屋はもうなくなってしまった。


それから程なくして、男のひとは本当に眠ってしまったみたいだった。わたしも本に目を落とす。


どれくらい経っただろう。わたしの文庫本の向こうの視界の端で、白いシフォンスカートがふわり揺れた。そっと目を上げると、落ち着いたブラウンの髪をポニーテイルにした女のひとが、黙ったまま、男のひとの前の席についた。紙袋をふたつ、テーブルに置く。自分用の飲み物は頼まなかったようだった。


男のひとは起きない。


女のひとも何も言わない。スマートフォンに目線を落としたまま黙って、男のひとの向かいに座っている。


わたしは文庫本を閉じて、少し冷めかかったコーヒーを一口飲んだ。


女のひとの左手の薬指には、小ぶりで明るく光るダイヤの指輪。


このひとを、待っていたのね。


そのまま、しばらく時が流れる。今では、テナーサックスが小刻みなトリルを並べる明るくも暗くもない、わたしの知らない曲が店内に流れている。


男のひとがあまりにも気づかないから、こちらが不安になりかけた頃、やっと小さな瞬きを数回する。この時にはもう、わたしはほぼその光景を凝視していた。格好だけ、スマートフォンを手に持って、さりげなさを装いつつ。


続いて男のひとは、あくびをひとつ。スマートフォンの画面をちらりと見て、目をひとしきり擦った。けれどもまだ女のひとには気づいていない様子。こんな至近距離に座っていて、なんとも鈍感すぎない?それとも気づいているけれど、気づかないふりをしているのかもしれない。女のひとにしても、ちらりと視線を向けはしたものの、またスマートフォンの画面に視線を落とした。無言のまま。


このひとたちはいつもこうなの?もしかすると、付き合いが長いのかもしれない。


そんなこと思っていると、男のひとはいかにも眠たげにもうひとつあくびをして、ふいに目線を上げた。

女のひとを視界にとらえて、いくぶんはっきりとした瞬きをふたつ。

そして、凝視していなければわからないくらいかすかに、口もとで小さく笑った。


ああ、この男のひとは本当に、女のひとが戻ったことに気づいていなかったのだと、確信する。あの一瞬の微笑みは、そう確信させる何かが凝縮された微笑みだった。


その軽いけれど、身の詰まった微笑みを女のひとは見逃しただろう。そう思うと、なんとなく楽しい気分になった。


はじめに男のひとに目を止めてから、わたしはこの瞬間を期待していたのだ、と深く納得する。もちろん、その時、この瞬間を予測したわけではないけれど。


わたしの好奇心は、きれいにフェードアウトしてゆく。


そのままふたりは無言のまま席を立ち、無言のままカフェをあとにした。



別にこのエピソードがわたしにとって何か意味のあるとも思えないけれど、わたしはこういう出来事が単純に好きなのかもしれない。


そしてきっと、よのもとくんもまた、こういう身の詰まった微笑みを見落とさないタイプのにんげんだと思う。





よのもとくんがはなちゃんと別れたような気がする。はっきりとした根拠はないけれど、なんとなくそんな気がする。ずっと長く会っていなかったのだけれど、最近よく、連絡してくるようになったの。

別れたとは言っていなかったけれど、ね。

そしてわたしは、ついこないだはなちゃんに会った。なんだか怖くって、何も聞けなかった。

わたしには、関係のないこと。どうでもいいこと。どちらにせよ、あまり知りたくないこと。今は、特に


03/20 15:28
ぶっくまーく






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