ゴウレム/golemoon


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二転三転百転
2016/01/23 19:01
「お前、女捨てたやろ?」

「いつ?記憶にない。」

「頭フケ散らかしてるしやな、色気のない肉体を顕著にしてるデザイン性を放棄
して機能面だけ特化してる質素な服装、
お通やみたいに真っ黒で色彩に制約があるみたいな色見のバリエーション。
穴の空いたユニクロのセーターおまけに右
腕には白ペンキで汚れてますけど何か?的
な投げやり感、これで女捨ててなかったら
どないやねん。
女以前に、ドロップアウト寸前の「人間捨
ててますけど突然変異じゃありません」て宣戦布告してるのと変わらんで。」

「考え事をすると金田一耕助みたいに頭を
強く掻きむしる癖があるんだよ。

(医学的にも、ストレスを受けた時にかゆみ
を起こす成分が血中に増えると判明してま
す。)

ドロップアウトかぁ。
世俗からフェードアウトしてみたい。
でもって、人間放棄してますという自覚症
症状の元、それを体現してるつもりも皆目無い。」

「人間失格者に自覚症状があったら、
その状態を維持できてないよ。」

「成る程、そうなのか?」

「まぁ、いいわ。
それで、好きな人にフェードアウトされた
と言われても仕方無いと思うわ。」

「そうか、諦める。」

「まぁ、相手が君とは世界が違いすぎるん
や。
せめて、同じ穴のむじなに惚れなさい。」

「後は、今のところテッドくらいしか好き
になれそうないや。」

「どういう基準で惚れるのか法則が無秩
序。」

「例えていうなら、そこに山があるからに
近い」

「・・・。」

「山、川、森さん」

「森だけさん付け?」

「森には妖精が居るからな。」

「似合わずメルヘンやな。きもい。」

「いや、河童や天狗がいるやん。
河童みたいな浮浪者や天狗みたいな仮面を
被って死体の遺品を粗捜しする
浮浪者とかが。」

「それはそれは、黒い妖精だな。」

「この世はグリム童話だよ。

て、存在しないよね。
悲しいことに。」

「そして、神聖なるセックスも存在しな
い。
愛欲と色情にかられた男と女のドロドロし
た結合の結果、生まれ落ちた俺らが紡げる
世界なんてそんなもんだ。」

「あれ、人を世捨て人の非人道者だと突っ
込む割には、君自身も世俗的な考え方じゃ
なく、退廃的な道徳観の持ち主だったんだ
ね。」

「退廃的なのかな。
普通や。悟っただけや。」

「悟ると人生全てに喜びを素直に見出だせ
なくなる。
一喜一憂がどんなに儚く愚かしい事かと
思ってしまう。」

「そやな。」

「悟る答えはまた、導き出された一つの解
釈に過ぎない。
ただ、今を大切に生きることしか出来ない
限られた生命の人間には、

に取って一番の喜びを運んでくれるのかを
優先した結論が自分にとってはいいものな
のかもしれない。」

「おい、冒頭の会話から大分反れてキャラ
クター分担が分からなくなってきてるぞ。

「いや、私は今主人格じゃないから。
統合してる人格の方だよ。
あの子は寝てるよ。向こう側でな。」

「途中から変わった?」

「あぁ。神聖なるセックスどうたらの話題
からな。」

「成る程な。」

「あまり、あの子をからかうな。
君は誰よりも知ってる筈だ。
あの子の人格の一人として体感してるわけ
だから。
見てきたものを受け止め退廃的になるのも
分かるが、
私達は、こんな現実の世界にも希望の光を
見出だして導いてやらなければならない。

「そうだったな。」

「私が人格として存在する意味は、各々の
人格の監理と適切な軌道修正、統合だよ。
主人格を庇護する為に人格が分岐して各々
の特質で分担して機能してる訳だ。」

「過保護だよ。
主人格のあいつも、分かってるはずさ。希
望を見出だしてやりたいけどよ。
あいつ、自分の人生を何処か放棄してるぜ。」

「あぁ。あの子は何処か常に気持ちとは裏
腹に冷めてるんだ。困ったものだ。
拘りが無いというか、諦めているに近い。
何処かで踏み込む人からの一線を画する為
に意図してる言動でもあるし、
ありのまま生きたいという希望でもある。
それで、離れて行く者なら本人とは、本来
縁の無い人間なのだ。
特に上部と付加価値で付き合う基準を見付
けようと寄ってくる人間には、あの子の人生は理解できないだろう。早めに消えても
らった方がいい。
あの子もそれを分かってるんだ。」

「そうだったのか。」

「あの子の何よりの希望は死だよ。
あんな事いってるが実は深刻でね。
期待や希望を抱くことは落胆への更なる自
傷行為だと思ってるから、感情を抑制し過
ぎて無情になっている。
あの子にもかつて希望や期待はあった。」

「あいつが滅したら俺も滅びんだろ。
あいつの為に生まれて、あいつの為に死ぬ
のか。空しい生き方だな。
せめて自由に自分だけの時間を好きに生き
たかったよ。
俺の人生は空白が多すぎて。」

「でも、君はあの子の意思で生きてる。君
や僕たちを生んで生きようとした。魂の叫
びだ。それが、奇跡を生んだ。彼女自身が
望む望まないにしろ生態の本能的な機能が
耐え生きる為に、こうした。」

「確かに、一人の人間から何人もの人格が
同居してるのは奇跡みたいに不可思議な話
だよ。」

「生き物の神秘、シナプスの無限の可能性
には驚きだ。」

「煩い!静かにしてくれよ!明日早いん
だ。いや、もう今日じゃないか。
寝かせてくれ、ぶつぶつ煩いな。
もう、夜中の3時だよ。」

「御免ねダーリン。
独り言。御休みなさい。」

「そして、他の人格達は意図も簡単に追い
やられたのでした。めでたしめでたし。
そういう、私の人格は主人格ではありませ
ん。それを、旦那は知りません。
厳密に言えば、彼は私の旦那ではありませ
ん。」

「煩いな。
気でも狂ったのかよ?
勘弁してくれよ。」

「御休みなさい。」

ロケットペンダントの中に入れていた薬を
呑み込み布団を被りました。

そして、次の日私が目が覚める事は無く
命は息絶えてました。

滅したいあの子の願望を背負い、
煩悩から救いました。
人格も滅び、一つの魂がそれはそれは軽や
かに天に昇っていきました。

「おい。死んでないじゃないか。
絶対に死ねる毒薬だって御墨付きの極秘
ルートで手に入れたマジのやつって言っと
きながら、パチもん握らせてんじゃねー
よ。幾ら払ったと思ってるんだ。」

「あーー!もう、寝れないじゃないか!」

「失礼ですが、あんただれ?」

「は?何とぼけたことをいってんだ?
カラかってんのか?」

「もしかして肉体関係持ったことある?」

「そりゃ、旦那だからな。
おい、誘ってんのか?もう、寝かせてくれ
よ」

「ひー!やだ。
キテレツだね。
誰だ〜こいつと肉体関係持って婚約した人
格よ!私は聞いてないぞ!出てこい!」

「あーー!何なんださっきから!
どうしたいんだ?何がしたいんだ?風邪
か?高熱で幻覚でも見て魘されてるの
か?!」

「幻覚であって欲しいと強く願っている。
目を冷ましたいから顔を殴ってくれ」

「は?」

「顔を叩きなさいよ!」

バチーン!!

「痛いわーボケが!
覚醒してたわ糞が!」

「大丈夫か?痛かったか?」

「触るな!撫でるな!問題ない私は問題な
い。」

あー!畜生!

なってしまったものは仕方ない。これから、どうするかだ!よし。

「五百万用意しろ。私は夜逃げする。
実は私は余命を宣告された身。
脳に悪腫瘍が出来て体に転移している。
離婚届にサインを。私は限りある短命を誰
にも迷惑を掛けずに費やし人知れず逝きた
い。武士に二言は無い。」

「?!
え?いや?え?!そうなの?
え?気持ちの整理が?!」

「煩いな。
私には時間がないんだよ。
一分一秒を争ってるんだ早くしてくれたま
え。」

「余命ってそんなに時間が無いのか?」

「三日だ。」

「え?え?えーー?!
うっ!今、用意する!」

「。」

「これが預金通帳。
残高は六百万近くある。
暗証番号はこの通帳に書いてある。
離婚届は君が以前に喧嘩して離婚よと言っ
た時に渡された離婚届の紙が残ってたから
そこにサインしたものを渡すよ。」

「よし。これで、悔いも無く逝けそうだ
よ。」

「もう、行くのか?」

「無論。」

「俺、お前を失ったら再婚していいか?」

「好きにしたまえ。」

「大きに。」

勢いよく玄関扉を閉めると振り返ることも
無く、足早に出ていった。

一方、男は携帯を片手に感極まっていた。
「こんな時間に御免ね!みかちゃん!聞い
て。離婚したよ!遂に遂に。やったよ!
妻はでていった。自ら出ていった。
みかちゃん待たせたね!
みかちゃんと僕の愛のおうちだからね。」

「ほんと?わーい!明日から行ってい
い?」

「いーとも!」

その数日後、タイミングが良い事にこの家
に空き巣が忍び込んで、ある一室で彼等が
愛を育んでいるとは知らずに金品を盗み放
火して去っていくという事件が起きたと
か。

一方では、旦那の残高を資金に欧米へ渡り
現地の人とすったもんだをおかしつつも、
半生をスリリングに描いたノンフィクショ
ン作家としてブレイクし、映画化されヒッ
ト、執筆家、演出家として活動してる有
名人がいるとかいないとか。




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