2024.4.10
小砂川チト『家庭用安心坑夫』
子供の頃に椅子や机にシールをペタペタと貼った記憶がある人は多いと思うけど、主人公が同じように実家に貼った筈のシールが日本橋三越の柱に貼り付けられてるのを発見するところから物語は始まる。
虚言癖の母親から父親だと言い聞かされて来た観光鉱山のマネキン人形「ツトム」が行く先々で現れるようになるという若干ホラーな展開。
鉱山の事故で死んだ坑夫の視点と交錯しつつ進む、どこまでが現実なのか分からない一見すると不条理なストーリーは同作者の『猿の戴冠式』と同じく自分の現実から逃げていた主人公が自分で現実を直視するまでの課程が描かれてる。
そこまで極端だったり病的だったりはしなくとも、誰しも自分自身の過去やセルフイメージを自分自身を守る為に捏造・改竄してるんだよね。
過去の美化もそうだし、例えば自分が正常や常識の側に居るつもりの人が周りから見れば全くそんな事は無かったり、逆に自分が異端で特別だと思ってる人もまた然りだったり。
見えてる世界はそれぞれ微妙に違って、本当の自分なんてのは自分が一番見えてないものなのかもしれないと思う。
ところで、僕の地元にも同じようなマネキンが並んでる観光鉱山があり子供の頃から好きでよく行ってたのでイメージしやすかった。