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あれからはちと3回会った。
1回目はきーちゃんと3人で映画を観に行った。近くではやっていなかったから、電車で2つ隣の町の映画館まで。
2回目はそれから1週間と少し経ってから、今度は2人だけでまた2つ隣街町に行った。
そう、結局ね、映画を観に行った日にlineのIDは知られてしまってね、突然、はちから連絡が来たのだよ。
「部屋に置くスツールを探しに行くからつき合って」なんて言うの。『総合的に判断して、行くべきではない』と直観で思ったんだけれど、まあ、行ってしまったわけ。だって、趣味が合うんだもん。楽しそうって思ったんだもん。これまでに、あたしをスツール探しにつき合わせた子なんていなかったんだもん。
スツールはちゃんと素敵なのが見つかった。あの町はごたごたしていない。建物は高くてもせいぜい5F建てくらだし、ガラス張りの明るくてこざっぱりしたお店が坂道に沿ってきれいに並んでいる。川が流れて、夕焼けがあったかかった。
一息つくために入ったカフェで、きーちゃんとはちが出会ったお話を聞いた。
夜道・パーティードレスと折れたヒールの女の子・ダークグレーの車・お礼のたばこ・お誕生日・ごはん・キス......
なかなか面白いお話だった。
「お互いゆるいスタンスをとっちゃったしさ、なんかうまくできすぎた話でさ、こんな(セフレみたいな、と後ではちは言い直していた)関係になったんだよな。友だちとも『つき合ってる』とも違う」
うん、それはよくよくわかる気がするよ、はち。でも簡単に「わかるよ」とは言わない主義。
「惚れたら負け、なんでしょう?」
「うん、そう、それだ」
「ね、でも引けないね」
「きらいじゃないし、引く理由もない、けどけっこう危ないな」
「うん、きっと危ないよ」
あたしがそう言うと、はちは黙った。気まずくはない種類の沈黙。
「Tataちゃんてさ、彼氏いた?」
「うん、いるよ」
「そうか、先生と同じベッドで寝てる時も、彼氏いた?」
「うん、ずっと前からずっといる。他のひととごはん行くときもドライブに行く時も手を繋ぐ時もちゅーする時も、ずっと遠くにいる」
はちといると、「キス」じゃなくて「ちゅー」になる。言葉がね。
「やあやあ、なかなかだね、Tataちゃん」
「はちこそ、彼女いるんじゃなくって?」
「まあ、そこは難しい部分なんだけどな」
「は?なんで急にはぐらかしてんの」
2人で笑う。
「いや、そこは、ほら」
「いや、じゃないよ。別にきーちゃんに言ったりしないよ」
「うん」
「それに、きーちゃんだってそれくらいまず考えるだろうし、ねえ」
結局はちは、うんともいいやとも言わなかったけれど、何かがいるんだよね。うんうん。
それから、地元の駅まで電車で戻る時に、帰宅ラッシュと重なって、それに紛れて、はちと手を繋いだ。
あたしのあの口から出まかせなセリフ(事実だけれど)のせいで、それが引き金になって、こんなことしてるんじゃなければいいんだけどな、ってぼんやり思った。あれに引きずられて、ドライブしたりちゅーしたり、ってなるのはあまりにも安っぽい。
うん、うまく言い表せないけど。
もっと他の理由で、ドライブしたりごはんに行ったり、手を繋いだり、ちゅーするのなら、一向に構わないんだけれど。
とにかくそんな風に思ったの。
長くなったから、この続きと3回目のお話はまた。