17-d SS部屋

ここは 17-d のSS置場です  
 ■ 本当に欲しかったもの    2022/5/18 01:51
ぐだ(男)×アスクレピオス
R-15


【本当に欲しかったもの】


「待てマスター」
カルデアの人気のない廊下で、俺はアスクレピオスに呼び止められた。
なに、と言い返す前に腕を引っ張られ、壁に押し付けられた。
「い……っ!」
壁に背中をぶつけた衝撃で思わず呻く。
だが、それをお構いなしにアスクレピオスは袖の入った両手を俺の顔の横につき、真っ直ぐ俺を見据えてくる。
普段はフードとマスクで隠れている端正で整った顔に見つめられると結構迫力があるのだ。
思わず目をそらせば、両手で俺の両頬を挟んで無理やり真っ直ぐへと変えさせられる。
「………………………………」
この時にこうなった理由を訊けばよかったのだが、お互い何も言わなかった。
その無言がどう受け取られたのかはわからないが、あまりいい方向に受け取られてはいないのを行動で示された。
ただでさえ近すぎる距離をさらに腕すら壁につくくらいまで距離を詰めてきて、抵抗もしなかったがために額同士がぴったりとくっ付き合うまでになっていた。
ここでようやく俺はなるべく平然を装って声を出す。
「えーと、何?」
重苦しい空気の中、表情一つ変えることなくアスクレピオスは口を開いた。
「――マスターは」
「う、うん……」
何を言われるのか、聴覚の全神経を研ぎ澄ます。
「昨日、僕の部屋に来たか?」
表情を何一つ変えることなく、声も変わらず、ただただそれだけを問いただされる。
「え」
ぎくり、と俺の身体が跳ねた気がした。
そう、俺は昨日の夜遅くにアスクレピオスの部屋に行った。
ただ会いたかったから行ったというのであればよかったのだが、そんな青春全開な理由ではなく、もっと邪な理由、正直に言うと性欲を発散したかったから行ったのだ。
だが、部屋に行ったのはいいものの、アスクレピオスは明かりが付いていない部屋でベッドの上に横向きになって規則正しい寝息をたてながら安らかに眠っていたのだ。
しかも珍しくパジャマ、手が袖で隠れるくらいサイズが大きめの前開きの薄手のパジャマを着て、格好すら完全に熟睡モードに入っていた。
ここで引き返せばよかったのだが、俺の下半身はたぎりにたぎっていた。
一瞬、良心がよぎって迷いはしたものの俺は決意した。
一度決心してしまえば良心がいくら咎めようと言い訳して突き進めてしまえる。
だって目の前に恋人がいる、しかもこんなにも無防備な姿で。
こんなの我慢できるわけがない、仕方ない。
そんな理由では許されるわけがない。
でも咎められるとわかっていても、心の奥底に滾る欲望に突き動かされるままに俺は行動していた。
まずはそっと近付いて、頬を撫でる。
柔らかくて、すべすべな白い肌が気持ちいい。
触って、起きる様子がないことを確認してから、胸元に手をかけた。
サイズが大きいパジャマは少し引っ張るだけで肩が胸元が見える。
ごくり、無意識に唾を飲み込んだ。
一番上のボタンを外す、次に二つ、三つと外して、それから肩を露出させるように脱がしてみる。
うん、すごくいい。
肩にキスをして、首筋に顔をうずめてキスしたり、舐めながら肩を押して仰向けにさせていく。
その際、俺もベッドに身体を乗り上げる。
鎖骨辺りに吸い付きながら、首筋の匂いを嗅いでその匂いに酔いしれる。
ますます理性が飛びそうになりそうなのを感じながら耳たぶにかじりついた。
「……ん……っ」
かすかに上がる声。
しかし起きる気配はない。
ここで身体を起こした俺は少し冷静になってしまったのが不味かった。
この期に及んで止めようとしている意思がまだ残っている。
やめる気なんて更々ないということを示すように開かれた胸元のパジャマの下に手をいれて、まだ柔らかい突起を指先でくすぐった。
「……は……っ……、ぁ、ん……っ」
寝ていながらも身体を震わせ、小さく喘ぐ声を聞くたびにどういうわけかどんどん罪悪感が募っていく。
アスクレピオスは夢の中でも誰かとこういう行為をしているのだろうか、と勝手な自分の想像が決定打で心が萎えた。
ベッドから降りて、服を元に戻し、布団をかけ直す。
でも別れはいつも名残惜しくて、唇に軽くキスしてから、後ろ髪を引かれる思いをしながら部屋を出たのだった。
そして時は現在に戻る。
自分でもわかる明らかな動揺。
元より嘘がつくのが下手な俺が、更にこの端正な顔と見透かすような鋭い目を前にしてこの動揺を隠せるわけもなく……。
「……ごめんっ!」
俺はもう潔く謝ることにした。
アスクレピオスの気持ちもわかる、人が寝ている間に何かされるのは俺だって嫌だ、しかし俺は人が嫌がることをしてしまった、だからこうしてアスクレピオスが怒っているんだ。
この怒りはしっかり受け入れて報いを受けよう、そう覚悟を俺は決めた。
「なんでマスターは謝るんだ?」
「ホントにごめ、……え?」
謝るくらいなら最初からするな、そんな言葉が返ってくるとばかり思っていただけに、言われたことが一瞬理解できなかった。
「ん? え? あ、あの、今なんて……?」
謝ったの、変だった?と聞き返すと、アスクレピオスはわずかながら俺から離れた。
「謝るということはマスターは僕が怒ってると思っているからだな? それは間違ってはいない。が、正しくもない」
「ええー、結局どっちなの……」
緊張感の糸が解けて、もはや脱力。
考えていることが普段からわかる方でもないが、今日は輪をかけて更にわからない。
広々とした廊下の隅っこ、基本賑やかなカルデアとは打って変わって静かな中、聴覚の神経だけを研ぎ澄ませてアスクレピオスの返答を待った。
そして開かれた唇からはまたも予想だにしない言葉だった。
「なぜ何もしなかった」
「……は?」
素直に意味が分からなかった。
わからなさ過ぎて、頭の上にははてなの文字が浮かぶばかりだ。
俺は今アスクレピオスから怒りを買っているのだが、何に対して、というのが今判明したはずだ。
何もしなかった? 誰が? 俺が? ……さすがにここまできて、何を?と思うほど鈍感ではない。
つまり手を出さなかったことに対して怒っている、と。
……そうなると一つだけつじつまが合わないことが出てくる。
「……もしかして俺が行ったとき起きてた?」
「違う、寝たばかりのところを起こされたんだ」
あの時の俺は騒がしくしたつもりはなかったのだが、起こすつもりではいたので、アスクレピオスが起きてもいいや、という心境だったのは事実だ。
「こ、恋人同士でも合意の上じゃないと犯罪だから……」
今更こんな言い訳通じるとは思ってはないけど、言い訳しないよりはマシだと思って言う。
するとアスクレピオスは顔色一つ変えずに言い放つ。
「そうか、なら許可するからこれからは好きにしていいぞ。準備もしておくから遠慮はいらん。そんなに心配なら最初から起こしてくれてもいい。僕もマスターだとわかっている方が安心する」
「いやいやいや……、ちょっと待って! こここ、心の準備が……っ!」
「今晩から用意しておくからいつでも来い」
そう言いながらアスクレピオスは俺から離れていく。
「え、ええ、えええっ!! 待って! そんな爆弾発言だけ残してどっか行かないで!」
どこか上機嫌にも見えるようにも思える、そんな笑顔だけを見せて行ってしまうアスクレピオスを俺は引き止める言葉が思い浮かばず、見送るだけになってしまい、一人廊下に残される。
嫌われるような事体にならなくてよかったと同時に、別の新しい問題にどうすればいいのか――、というより、本当に行ってしまうぞこのやろー、というヤケに近い心情の方が大きくて、挑発された以上は行かないと男が廃る!と自分に言い訳している俺がいるのだった。


‐ ‐ ‐

約束通り、というわけではないが、俺は今晩もアスクレピオスの部屋へとやってきた。
もちろん目的は平たく言うと夜這い、しかも本人公認の。
やめるべき、今なら引き返せる、と何度も思うのだが、足の歩みは止まらなかった。
それは止められる理由がなかったから。
アスクレピオス本人からお許しが出ている以上、止める理由がない。
ついに来てしまった部屋の前、震える指でロックを外す。
開かれた扉の先は真っ暗な部屋。
中に入って背後の扉が閉まってしまうと完全な真っ暗になるので、閉まりきる前にベッドサイドテーブルにあるランプを付けた。
そしてそこで気付く、このベッドサイドテーブルの上にあるものを。
「……準備良すぎ……!」
そこにあったのは見慣れたローションで、ちゃんと開封もされている。
ベッドの上には布団を深く被って寝ているアスクレピオス。
今日は背中を向けられている。
そっ、と布団を退ける。
下に、下に、と降ろして、俺は途中でその手を止めて、思わず布団を被せ直してしまった。
俺が見てしまったのは下半身は何も身につけていない姿で、そこまで心の準備ができていなかった俺には一気に股間に性欲を滾らせる。
「……もうこれは冗談では済ませられないからな!」
今まで俺を煽ってくるようなこういう行動をして、冗談だと寸止めされたことは一度もないけれど!
仰向けにすればそこには安らかな寝顔があって、けれども笑みを浮かべているのだがそれが挑発的なように思えて、絶対に止めるようなことはしないと固く誓った。

このあと、無事に目的は達成されたのだが、数々の誘惑があって、終える頃には俺の理性は完全に崩壊していたのは言うまでもない。




自分はぐだピオで睡眠姦書けないことがわかった

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