17-d SS部屋

ここは 17-d のSS置場です  
 ■ ショコラ・メモワール    2021/2/14 01:16
ぐだ(男)×アスクレピオス


【ショコラ・メモワール】


2月14日、バレンタインの日である、そしてもう日が暮れてすでに夜中。
運んでも運んでも終わらない地獄が終わった、もらいものを全部部屋の中から運び終えた俺は疲労でベッドに沈み込んでいた。
何往復したのか覚えてない。
これ以上動く気になれないそんなとき、俺の部屋のドアが動いた音を聞いた。
「なんだ、この匂いは。チョコの匂いが酷すぎる」
部屋に入って早々、しかめっ面になって瞬時に黒衣にマスク付けた姿に変えるアスクレピオス。
「うるさいな。今さっき、その匂いの元を部屋の外に出し終えたばかりなんだからちょっとくらい我慢してよ」
「……呼んでおいてひどい言い草だな」
しかめっ面は相変わらず変えないまま、ベッドに沈む俺の近くまで来てベッドの端に座った。
「マス「喉乾いたからキッチン行ってくる、え? なに?」
起き上がってからの宣言と同時だったがために、アスクレピオスが話しかけてきたのを遮ってしまった。
「……いや、帰ってきてからでいい」
「? うん、わかった。じゃ、行ってくる」
俺はアスクレピオスに見守られながら部屋を出る。
先に用事を済ませろと言われた以上、従っても問題はないはずだ。
でも、待たせるのはよくないので、さっと行ってさっと帰って来ようと決めた。


‐ ‐ ‐


「ただいまー」
「おかえ……、何持ってきたんだ、マスター」
いつもの白い装束に着替えていたと思ったら、俺が手にしているものを見てまた黒衣に戻った。
「何ってチョコだけど。余ってるって言われたからもらってきた」
そう、俺が持っているのはチョコ、しかも板状にしてあるために持ちやすい、食べやすい!
加工したキッチン部、ナイス! と褒めたたえたい。
「一生分のチョコもらっといてまだ食べる気か」
「みんなからもらったチョコは勿体なくて食べれないよ……」
「本音は?」
「強化成功率3倍期間待ってます」
「よし、いつものマスターだな。清々しすぎて引く」
そう言いながらも、俺が近付いてベッドに座っているアスクレピオスの横に座っても離れる様子もなく、ぱきぱきと音を立てながら食べている俺を、何かを言うわけでもなくその様子をじーっと見つめてくる。
その視線と目が合って、俺は一度動きを止めた。
チョコを噛んで、口の付けたところから先を折って、口の中のチョコを飲み込みながら、手に残ったチョコをもう一つの手を使ってパキッと折った。
「食べる?」
割ったチョコを差し出すと、アスクレピオスはしばらくジッと見つけた後、袖から手を出してチョコを俺の手から受け取る。
「別に欲しいわけじゃないんだが……」
そしてマスクを外して口の中に運んだ。
「……もらったのと全然変わり映えしない味だ」
「元は同じだからね」
文句をいいつつも、ぽりぽりと控えめにかじりながら食していくアスクレピオスだったが、最後の一口を人差し指で押し込んで、口の中にすべてのチョコを食し終えたあとゆっくりと目線をこちらに向けてきた。
「な、なに?」
「いや別に、なにも?」
そうはいうものの、徐々に吊り上がっていくアスクレピオスの口角に危機感を覚え始める。
「ちょっといいこと思いついただけだ」
「は……」
そういった直後、アスクレピオスの口元がにやりと笑ったのを見てしまった。
ああ、これはろくなことが起こらない。
ベッドの上で後ずさるも、爛々と怪しく輝かせながら近付いてきたアスクレピオスにがっちりと両肩を掴まれて逃げられなくなってしまった。
後ろに逃げたところで、後ろにあるのは壁だ、捕まるのは遅いか早いかしかなかったけど。
目を離すこともできず、ただ顔が近づいてくるのを見てることしかできず、そのまま唇が重なった。
柔らかい、――感触。
唇がただ押し付けられるだけで終わるわけもなく、その隙間から伸びる舌が俺の唇を舐める。
それは合図だった、口を開け、という、……いやむしろ命令だ。
もはや立場がどっちが上なのか、なんて考えることもなく、ただ反射的に口を開けばそこにするりと舌が侵入してきた。
「……っん……」
いつもよりも、――甘い。
これは直前まで食べていたチョコの味だ……、とそう気付いた瞬間、引きはがしたくなった。
持っていたチョコを布団の上に一旦放置して、肩を掴んだ瞬間、より深く舌が入り込んできて、強引に舌を絡められる。
「んんん……ッ!?」
こちらの意図を読んでるとしか思えない、というか確実に読まれている。
今までもそうだったし、改めて確認することでもない。
だんだんと苦しくなる呼吸。
それを伝えるために肩をたたくと、意外にもすんなりと離れてくれた。
「ちょ、待ってくれ……、これ以上は……」
「これ以上は? 何だ?」
「……俺は、たぶん、チョコレートを食べるたびに、今のことを思い出すことに、なる……」
そう伝えると、きょとんとされた。
しかしすぐに表情は元に戻った。
「へぇ……、そうか」
視線が下に向けられる、その先にあったのは俺の手放したチョコレート。
嫌な予感しかしない。
肩を掴んでいた手が離れ、案の定、そのチョコレートを拾い上げる。
そして、チョコレートの端を噛むとパキリと折った。
チョコレートを咥えたまま、顔を近付けてくる。
俺は拒むことなどできるわけもなく、口を開く以外のことができるわけもなく――。
抗う手段なんて最初からない俺は、満足そうに目を細めて笑ったのを見たのを最後に、もっと深くこのチョコレートの記憶を悦楽とともに刻み込まれてゆくのだった。



ばれんたいん。
だれがなんといおうと、ぐだアスP

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